東京・渋谷のはずれの山手線の線路脇にある路面店デスペラードが、改めて話題を集めている。オープンして15年、ルックから店を引き継いで新体制になって3年。自由な空気が漂う店内には、新進ブランドや注目ブランドが揃い、何かを見つけ出すようなドキドキ感がある。ルック時代からバイヤーだった泉英一社長に、そのコンセプトやビジネスの在り方を聞いた。
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■ やっぱりファッションだから感動がないといけないと思います。バイヤーは本来、感動したら感動した分だけ買えるものだと思う。売り上げのこととか考えたことないです。感動が多ければ、それだけ売れる。
前年売れたから、今年も売れるなんて思ってもいない。東京で路地裏の商売をしたかった。そのためには、お客さんが足を運んでくれるような個性がないといけない。
日本は街づくりが変わりました。駅の上にビルを建て、駅を中心に街を考えている。海外の都市では考えられないことです。駅ビルを建てると街は死んじゃう。駅に行っているだけで、その周りの街には行かなくなっちゃう。それが路面店を厳しくしちゃっている。
例えば、熊本は駅から離れたところに上通りや下通り商店街がありますし、京都駅と河原町も離れている。だから面白い。街づくりが変わってきて、ストリート文化がなくなっちゃった。だから街づくりが間違っている。
安い、うまい、早いに便利さが加わって、それでファッションが薄まっちゃった。住民がいて、そこを行き交う人がいて文化になる。僕はここが大好き。この店の周りにはフロンティア精神を持った人たちがいっぱいいる。いろんなものが生み出せる場所です。渋谷で唯一開発されていない場所。だから15年前にここを選びました。
■ 3年前にルックからこの店を引き継いだ時に、自分のお金で改装して始めました。自分たちの手でやることで自分たちらしさが出る。お金で勝負したら負ける。大きなところと市場で戦うには、自分たちのやり方でやるしかない。
組織やシステムで売っているものは、売れなくなってしまう。ファッションから離れていく若い世代が増える中で、全体に投網をかけるような売り場じゃダメです。どういう人に売るかを考えて売る。
理想はプロに売れる店にしたい。今の洋服屋は、プロが買わない物ばかり売っている。だから大手の店のスタッフがうちに買いに来る。自分の欲しいものと売っているものの開きがどんどん出てきたから。日本人の悪いところはみんな一つの方向に流れてしまうところです。
うちはセレクトショップじゃなくてコンセプトショップ。オーナーの考えを勇気を持って言っていかないと人は集まらない。サークルじゃないけれど、店は何か楽しくないといけない。ここはこの店単体で人を呼べる店にしないと、誰も来てくれませんから。駅なら勝手に人が来てくれるけれど。
東京は人と物が変わっていく。スタッフもそう。そこには固執しないけれど、自分の方向性は変えちゃいけない。16~17年秋冬で、扱っているブランドは15カ国125ブランドです。1店舗でです。
15~20ブランドがいつも新しいブランドで、あらゆるところから見つけてきます。来シーズンもやっぱりそういう割合になる。
一方で、残念ですがドロップしたブランドもある。新陳代謝じゃないですけれど。でも、そのブランドが抜けるから新しいブランドが入れるわけで、それが変わらないと進歩していけない。
それはお客様にとっても一緒。去年と同じ店だったらお客様も他の店に行く。みんな卒業していく。お客様の半歩前、1年早くやっていないといけない。そこに憧れが生まれる。
消費者とファッションの距離感が近くなりすぎて、ファッションが石ころみたいな扱いになっちゃった。作り手と買い手の距離が近くなりすぎたからです。
「マルタン・マルジェラって誰だろう」とか、「川久保(玲)さんってあまり出てこないよね」とか。それが雲の上のような存在感を作っている。作り手と買い手の間の架け橋になるのが売り手ですから、そういうデザイナーを大事にしていきたい。
■ アイドルじゃないけれど、デザイナーが身近になりすぎた。展示会の時にフレンズデーを設けて、掛け率は店も個人も同じで店にはミニマムロット指定があるけれど個人にはない。そんなことをしているデザイナーを見ると、あなたはどっちに売りたいのかって思います。
百貨店は一切、物を買わないで、若手のデザイナーにポップアップショップでリスクを押し付けている。僕は全部買います。100%買い取り。オリジナルは一切やらない。自分のお金で買わないとダメです。当たり前のことです。
自分の想像していることと実際のギャップ、それがサプライズになる。人が驚くことを起こしていかないといけない。お客様の期待をいかに裏切るか、それを考え続けています(続く)。