【トップインタビュー】帝人フロンティア 代表取締役社長執行役員 平田恭成氏(PR)

2023/03/06 00:00 更新



 帝人フロンティアは、「暮らしは、せんいで進化する。」をコーポレートメッセージに掲げる。リサイクルポリエステル「エコペット」の販売を始めたのが1995年。サステイナビリティー(持続可能性)が注目されるずっと以前から環境に配慮した素材開発や技術革新に取り組んできた。その蓄積が今、生きる。環境戦略「THINK ECO(シンクエコ)」を軸に、地球環境に配慮したもの作り・仕組み作りを通して、「未来の社会を支える会社になる」ことを目指す。

協業を通して効率的にリサイクル

―環境配慮が経営の前提になっている。

 企業理念に掲げる、「新たな価値を創造し、美しい環境と豊かな未来に貢献する」を実現するため、環境戦略「シンクエコ」を策定し、これを軸に事業を行っています。バージン(新品)ポリエステルを原料に汎用素材を作り、価格を抑えた商品を大量に作る、そうしたモデルはこれからは通用しませんし、帝人フロンティアの方向性にも合いません。しっかりとしたコンセプトを持ち、その軸の周りに機能性や付加価値を付けていかなければ、生き残ることも存在価値を示すこともできません。


―環境に配慮した素材開発や工場運営が進む。

 顧客のニーズに合った開発素材が伸びています。スポーツ向けでは特に、マイクロプラスチックの対策素材として、起毛素材のように軽さと保温性に優れながらも、起毛せず立毛構造で洗濯時の繊維くずの流出を抑える「サーモフライ」などが好調です。工場運営では、タイのテイジン・ポリエステル(タイランド)社(以下「TPL」)で太陽光発電を取り入れて二酸化炭素の排出を抑えたり、中国・南通帝人では以前より排水処理などで先進的な取り組みを進めたりと環境保全や省エネにつながる投資を進めています。

―欧米などで環境規制の厳しさが増している。

 当社には環境安全・品質保証部内にCSR監査課を設置しており、世界の環境規制や法改正の動向を常にモニタリングしています。先手を打つことを意識して素早く対応しています。

―サーキュラーエコノミー(循環社会)実現に向けた施策が目立つ。

 中古衣料品のリユースおよびリサイクル事業を展開するファイバーシーディーエムと連携し、廃棄される衣料品をリサイクルする仕組みを構築します。同社が集める古着からポリエステル100%生地を当社のリサイクル技術によって再び繊維として活用する『ファイバーtoファイバー』の取り組みです。また、従来よりも環境負荷が少なく、着色されたポリエステル繊維であっても新品同様の品質に再生できる新たなリサイクル技術も開発しました。松山事業所内にパイロットプラントを新設し、量産化に向けて実証実験を行い、改良を進めています。

 とはいえポリエステル100%は全体の一部に過ぎません。衣料品は、ポリエステルだけでなく、綿やウール、ポリウレタンなどの複合素材が中心。ポリエステルとそれ以外の原料に分離する技術を開発中で、ポリエステルは当社がリサイクルし、他の原料は協業する他社がリサイクルするイメージです。業界団体などに働き掛けて、回収した衣料品をリサイクルできる仕組みを構築したいと思います。

―アパレル、小売りとの協業も必要では。

 状況は急速に、大きく変わっています。繊維のサーキュラーエコノミー実現には、服の表地や裏地を単一原料で作るモノマテリアルがひとつの鍵です。あるアパレル企業から、「全てポリエステルで作れないか」と相談されるケースも出てきました。リサイクルを前提に服をデザイン・企画して店頭で回収、効率的にリサイクルして再びウェアにする取り組みがでてくると期待しています。

 その点、欧州は規格作りや標準化が上手いですよね。彼らのルールに従うだけでなく、日本の繊維業界全体で取り組む日本発信の規格や標準化があってもいいのでは。例えば服の織ネームなどにICタグを付け、廃棄衣料として分別する際、機械が全自動で素材別に選別できれば効率が一気に高まります。

―産業資材分野での環境商材の取り組み状況は。

 自動車関連部材でもリサイクル素材など環境に配慮した商材のニーズがでてきました。エアバッグの生地を糸に戻して欲しい、といった要望があり、強度やスペック、コスト面のハードルは高いですが、実現に向けて様々な提案をしていきます。

リサイクル関連(新リサイクル技術による再生ポリエステル原料)

進む人財開発、働き方改革

―外国人技能実習生に対する先進的な取り組みが話題になった。

 CSR(企業の社会的責任)調達を進める中で、外国人技能実習生が現地で多額の手数料を払い日本に来ていることを知り、グループ内の国内工場では自社で手数料を負担する「ゼロフィー・プロジェクト」に19年から取り組んでいます。

―働き方改革や人財育成にも力が入る。

 在宅勤務は制度化し、人財開発では様々な手を打っています。今期から社内人財公募制度の「ジョブチャレンジ」を導入し、すでに何人か異動しています。シニア活用では、今期から60~65歳を対象にした新たな人事グレードを用意しました。

 女性のさらなる活躍も鍵です。将来の女性管理職を育てようとこの10年、採用する総合職の3割以上を女性にするようにし、最近では女性の方が多いほどです。25年度末で女性管理職を20名以上にするという目標を立て、管理職候補の女性社員が多く育っています。

 海外グループ会社との人財交流も進めています。上海法人を軸に、現地スタッフが本社で営業や生産管理を習得したり、本社から海外法人に若手を数カ月派遣するなどで人財を育てています。

環境配慮を軸に成長

―今後、強化する事業や取り組みは。

 環境に配慮した取り組みを軸に成長を目指します。衣料では、サプライチェーンの再整備を進め、インドネシアやベトナムなど東南アジア生産を強化します。

大きく伸ばすのはグローバルテキスタイル。環境配慮型の機能素材の海外販売をさらに強めます。

 産業資材では、環境関連やモビリティ関連への投資を強めます。水処理フィルター向けなどのポリエステル短繊維事業や自動車関連部材、帝人コードレの人工皮革など。

短繊維は世界的に需要が強く、タイ・TPLでラインの入れ替えなどを含め設備投資します。自動車関連では中国でのエアバッグ基布増強に加え、タイでのタイヤコード事業などで環境配慮を切り口にした商材を提案します。

 現在の事業の柱は、衣料繊維と産業資材。これらに次ぐ、柱を育てたいですね。

松山事業所内に工場を新設し、新たに始める不織布の製造・加工から自動縫製までを一貫で行う医療用ガウン事業のように繊維を活用したメディカル関連事業など、将来の柱となる事業を増やしたいと思います。

コードレ(靴、サッカーボール)
医療用ガウン

【profile】1962年広島県出身。85年に神戸大学農学部を卒業し、日商岩井に入社。05年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、14年帝人フロンティア繊維資材本部長、18年取締役執行役員産業資材部門長、20年取締役常務執行役員同部門長を経て、21年4月より現職。


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