アリス・アンド・オリビアのプレゼンテーションは、何もかもコロナ以前と同じだった。入り口前に群衆が詰めかけ、中は密状態。ドリンクを求めて行列ができ、チョコレートの乗ったトレーに人々の手が伸びる。マスクなしでおしゃべりしている人が多い。モデルたちも、コロナ前と同様に並んでポーズをとる。入り口でワクチン接種証明と顔写真付き身分証明書を提示した人たちしかいないはずだが、ちょっと長居したくない感じがした。
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服も、いつものアリス・アンド・オリビアの世界。ブラトップとパンツのセットアップ、ミニマルなスーツと同系色のデコラティブな刺繍を飾ったバンドゥーの合わせは、今シーズンらしい。小さなステーシーフェイスをびっしりプリントしたロングスカートとバケットハットには、くすっと笑いを誘われる。カラフルな花のアップリケ、サイケデリックプリントなど、明るく華やかな気分にさせてくれるアイテムは健在だ。
ヘルムート・ラングは、ソーホーのギャラリー、ナウヒアで展示会を開いた。ラゲージや家具を梱包(こんぽう)してひもでぐるぐる縛ったインスタレーションを置き、旅行、フライトスーツ、インダストリアルを意識したコレクションを見せた。旅行に憧れる気分を、機能的でスポーティーな服と旅行先でのドレスアップに重宝しそうなエレガントなドレスで表現している。いずれも、ロープをアレンジしたディテールが目立つ。
3.1フィリップ・リムは、ノリータにある直営店で展示会形式で見せた。ガーデンに咲く美しい花と、女性の開花を重ね合わせる。花びらに着想した大きなラッフルとひらひら波打つケープディテールを、ユーティリティーアイテムに混ぜていく。量感たっぷりのラッフルを付けたロマンティックなドレスやブラウスには、ドレスアップして出かける場面が増えるだろうという期待が感じられる。
ロゼッタ・ゲッティは、ショールームでコロナ前同様、3人のモデルに着せながらプレゼンテーションで見せた。マンハッタンの公園で見られる自然に触発されたイメージを入れながら、都会の社交の場でのちょっとしたドレスアップのための服を見せた。サンバーストプリーツ、葉の柄のジャカード、葉と鳥のプリント、アースカラーで自然を表現した。素材は、動きやすくてしっかりしたポンチニットが多い。
(ニューヨーク=杉本佳子通信員、写真=アリス・アンド・オリビアはランディ・ブルック)
22年春夏ニューヨーク・コレクションではメンズブランドのデジタル発表も相次いだ。
オーバーコートは、コンセプトビデオとルックブックの写真でデジタル発表した。動画は、代表の大丸隆平が白い物体に色々な布をかけて即興で何かドレープを作るもの。テーラーリングやパターンメーキングをユーモラスに表現した。服は全てユニセックス。コートのウエストのベルトループは上下に付け、女性なら上、男性なら下にベルトを通すのがお薦めという。パンツは、はぎを後ろ中心のみに入れて横から見ても生地の流れがきれいにみえるようにした。テーラーリングへのこだわりを維持しつつ、アイテムも色柄もずいぶん幅が広がり軽くなった。
クオンのテーマは「光の色」。ワッフルなど凹凸のある素材、タックを畳んでねじったディテールに表れる陰影と色の変化に焦点を当てたイメージ動画を見せた。コミュニケーションの取りにくい昨今、視覚効果で目を引くことで少しでもコミュニケーションを向上できたらという意図だ。シルバーのラメ糸をさりげなく入れた刺し子、デジタルプリントのパッチワークもある。セージグリーン、ペールピンク、サンドカラーは、今は行けないメキシコで見た光に着想した。
(ニューヨーク=杉本佳子通信員)
Nハリウッド・コンパイルは、携帯のゲームで遊ぶように新作を披露した。送られてきたQRコードを読み取ると、独自のアプリをゲットできる。それを起動すると街中を歩くマネキンが映し出される。ルックごとに服がダウンロードされ、色柄を自分で選択していくというもの。春夏は当たり前に存在するデザインやプロダクトのプロセスに対し、〝違和感〟をキーワードにした。一見するとベーシックなアイテムに、斬新なファブリックの配置や加工をコンパイルらしいバランスで形作り、不思議と溶け込む違和感を表現した。
(小笠原拓郎)