22~23年秋冬ミラノ・コレクション テーラーリングを背景に女性らしさ探る

2022/03/02 06:28 更新


 22~23年秋冬ミラノ・コレクションでは、「ステイホーム」から脱却し、積極的に外に出ていこうとするライフスタイルを映し出す傾向が顕著だ。そんな中、メンズライクなオーバーサイズのブレザーをはじめとするテーラーリングがキーワードの一つになりそうだ。それは曲線を際立たせたジャケット、仕立てを極めたビュスティエやコルセットなど、フェミニンなアイテムにまで広がっている。

(ミラノ=高橋恵通信員)

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 ジル・サンダーの会場は、ランウェー中央に「ミロのビーナス」「ダビデ」などのギリシャ彫刻が並び、カーペットや壁のドレープカーテンをアイボリー一色にまとめ、澄み切った静謐(せいひつ)感があった。ファーストルックは、アイボリーのふっくらしたウールのスーツ。スカートはミニ丈で、ダブルのジャケットはウエストを高い位置で絞り、腰をベル型にふくらませた、まるで彫像のような形だ。そのテーラーリングの技は、ロングのジレやボタン使いで新たなフォルムを与えたケープなどにも生かされている。メンズライクなテーラーリングに焦点が当たる今シーズンだが、ジル・サンダーはフェミニンな曲線とボリュームの表現追求にその技を駆使した。大きく星座のモチーフを手描きしたキルティングのコートや変形ケープのしなやかなドレス、裾のフレアを大きくとったマーメイドラインのニットのミニドレス、花形のフェルトをつないだようなギピュールレースのロングドレスなどロマンティックなアイテムにも、体と服との空間まで計算したこだわりを感じる。

ジル・サンダー
ジル・サンダー
ジル・サンダー

 ディテールには多数のボウが登場する。ドレスの肩やコートの襟元、シルクサテンのドレスのウエストなどにあしらわれたボウは直線的な形で、フェミニンな甘さというよりもきりっとした印象を受け、ここにもフェミニニティーとマスキュリンの配合の面白さが見える。

 クリエイティブディレクターのルーシー&ルーク・メイヤーは、「自分たちの作品を個人的に解釈し、応用し、自分のものにしてほしい」と提案する。ショーのインビテーションには、一年の月の満ち欠けを描いたハンカチが同封されていた。古代ギリシャ以来、女性らしさの象徴とされる月が、静かに曲線を描いて常に見え方を変えていくように、しなやかな感性で服を身に着けてほしいというメッセージのように見えた。

 「あなたを愛しているわ。でも私はヴェルサーチェを選んだの」。まるで愛人に話しかけるようなフレーズで始まったヴェルサーチェのショー。そんな自分の選択に迷いのない、強気で自信たっぷりな女性がまとうのは、ブランドのアイコンの一つのビュスティエドレス。コルセットのディテールは、クルーネックのトップやブレザー、ダウンジャケットにも取り入れられている。ビュスティエドレスにはぬめぬめと光るラテックスのニーハイブーツを合わせてアグレッシブに。ビュスティエの上からオーバーサイズのブレザーを羽織り、見えそうで見えない肌を演出してミステリアスさと多彩な演出で見せる。カラーパレットはディープレッド、ブラック、チャコール、プラムのダークカラー。そこにアボカド、キャンディーピンク、海と空からインスピレーションを受けたというブルーの鮮やかな色が加わる。フェイクファーのコートも鮮やかなカラーを組み合わせて、パワフルな印象に。「外に出て行こう。自分を守る服を着て」というメッセージを伝えるブランドが多い中、一気に強気な攻めの姿勢を見せた稀有(けう)な存在だ。

ヴェルサーチェ

 エムエム6・メゾン・マルジェラは、郊外の倉庫跡を会場に、メンズとレディスのコレクションを発表した。木々の間を縫ってアプローチする会場の客席には、トーチライトが置かれている。ショーは暗闇の中で開演、各自がトーチライトでモデルを追いながら照らす趣向で、何となく連帯感が漂ってくる。 

 メンズの一見クラシカルなダブルのチェスターコートはボックスシルエットで、極端なピークトラペル。デニムシャツを合わせ、さりげなくワークウェアのムードも加味する。チェスターコートは、レディスのロングジレにアレンジされ、パイソン柄のロンググローブと合わせてクールな印象に。パイソン柄のブレザーは、フランスのアウトドアブランド「サロモン」と新たに協業したマルチカラーのスニーカーと合わせる。ブロック状にステッチが入ったデニムのトラッカージャケットや立体的なラグラン袖で優しさを醸し出すオーバーサイズのアークティックパーカなど、ワークウェアも再解釈して提案する。いわゆる「デザインチームが半年間かけて熟考したテーマ」というステレオタイプなアプローチではなく、「ストリートで見かける着こなしや服の中に隠された美しさ」を見いだすコレクション。

エムエム6・メゾン・マルジェラ

 エトロのテーマは「エトロ・リミックス」。いつものパターンを打ち破り、部屋を出て都会のアスファルトジャングルに飛び出そうという気持ちを、素材のテクスチャーやデザインをはじめ、率直にミックスして表現した。ひし形を組み合わせたニットドレスには手編みや手織りのモチーフで、人の手が感じられるぬくもりを加えた。柔らかく体を包み込む大きなフォークロア柄のファー風ウールコートや、裏を巨大なペーズリー柄に染めたオーバーサイズのムートン製ライダーズジャケットは、インにショート丈のオール・イン・ワンを合わせて、都会に出動する女性を守ってくれそうだ。エスニック調のジレ、パッチワークのロングワンピース、ベルボトムのニットパンツ、手仕事でフリンジを付けたショルダーバッグなど70年代のヒッピー精神は健在。何種もの柄違いのアイテムを組み合わせたコーディネートはぎりぎりの外し感。思うがまま素直に服を着る、そんな自由が見える。

エトロ

 ミッソーニは、女性の内面とともに、コロナ禍のライフスタイルから自己を開放してこれから外に出て行こうとする姿を描いた。心臓の鼓動が高まるように、ロックの調べと編み機が立てる工業的な音が交互に鳴り響く。テディベアを手にしたミニワンピースのロマンティックな若い女性、ビキニに毛布のように大きなストールを羽織ったスポーティーな女性、ワイドなバギーパンツに、へそを見せたクロップト丈のジャンパーをまとったアクティブな女性。様々な女性たちが内なる自分らしさを見せる。後半には、ルレックスが一面に輝くニットのローブコートやロングドレスなど、外へと向かう女性を力付けるような輝くアイテムが登場する。ラストを飾ったのは48歳になった元スーパーモデルのエヴァ・ハーツィゴヴァ。まばゆいマルチカラーのドレスに赤いウェスタンブーツを合わせ、自分の意思で闊歩(かっぽ)していこうとする女性像を描いた。

ミッソーニ


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