【ミラノ=小笠原拓郎】「グッチ」が久しぶりにミラノ・メンズコレクションにカムバックした。「メンズもウィメンズも描きたい世界は同じ」というアレッサンドロ・ミケーレは、ラグジュアリーブランドの中でいち早くメンズとウィメンズの合同ショー形式を採用した。
その後、経費の削減などの問題もあり、多くのブランドがメンズとウィメンズを一緒に見せるスタイルへシフトしたが、20~21年秋冬は再びメンズ単独で見せることになった。
久しぶりのメンズのショー会場となったのは、ここ数シーズン使用しているグッチの本社ではなく、全く違う会場。薄暗い会場に入ると砂鉄のような砂が敷かれ、巨大な鉄の振り子が揺れている。まるで裁判所の傍聴席のような階段状の座席に座るとショーの幕が上がる。
スモーキングジャケットにシルバーのフレアパンツ、へそののぞく丈のセーターにオレンジのオーガンディドレス。メンズテーラーリングでもマスキュリンな匂いは消えている。繊細なチュニックとデニムパンツのコーディネートやジャケットとショートパンツにソックスを利かせたコーディネートなど、シンプルな中に、どこかフェミニンなニュアンスが閉じ込められた。
アクセサリーも、菓子が入っているかのような四角い缶のモチーフのバッグのほか、女性が持つような小さなハンドルの赤いバッグを抱えている。コートの上からメタリックな光沢のネックレスを重ねたコーディネートも目立つ。
モデルたちはリーゼントにロングヘア、マッシュルームにボブ、ブルーカラーなど様々で、いずれも既存の男性らしさとは異なるナイーブな表情。アイテム自体は、男性も女性も着られるものだが、そんなキャスティングの効果もあってかマッチョな男性らしさとは異なる繊細さが漂う。「家父長制度におけるいわゆる男性らしさではなく、これまでの男らしさの概念を解体すること。息苦しい固定観念を抜きに、自由に自己決定を実践する男をたたえる」という。男性らしさの在り方も様々になった多様性の時代における、ミケーレらしいメンズコレクション。これもまた、一つの新しい男性像の提案ではある。
(写真は大原広和)