パリ・メンズ テーラーリング背景に新しい価値を探す

2017/06/28 04:30 更新


 【パリ=小笠原拓郎】18年春夏パリ・メンズコレクションは終盤、テーラーリングへのこだわりを背景にしたコレクションが相次いだ。男性服の伝統であり、制約の多いテーラーリングで新しい価値をどう見せるのか。それは、メンズウェアの王道でもあるだけに極めて難しいことだ。メンズトレンドがスポーツに流れていっているのも、テーラーリングを巡る今の時代感の希薄さゆえのことなのかもしれない。

(写真=catwalking.com)

アレキサンダー・マックイーン

 アレキサンダー・マックイーンが、メンズのショーをパリで見せるのは初めてのことだ。リーが存命の時はミラノでメンズで見せていた。彼の死後、ロンドンでメンズを発表するようになったが、いよいよパリでのショー。そのコレクションは、ブランドの伝統ともいえるブリティッシュテーラーリングをベースにひねりを加えたもの。黒のスーツはインナーに着たアイボリーレザーのトップとコントラストを作り、プリンスオブウェールズチェックのスーツは複雑に接ぎ合わされる。

 後半はストリングスディテールがいっぱい。刺繍糸がそのまま垂れたコートやスーツ、経糸がすっぽり抜けて緯糸だけの生地で作ったコートなどを見せた。経糸を抜いた生地のテーラードジャケットは、2000年代初めにオーストリア出身の奇才キャロル・クリスチャン・ポエルが出していた。当時の彼のジャケットは経糸に水溶性ビニロンを使って溶かすという手法。それから10年余りの月日を経て、この生地の作り方にどんな進化があったのだろうか。いずれにしても生地のインパクトはキャロルのコレクションほどではない。ブランドの伝統や背景に忠実に作るサラ・バートンによるマックイーンのコレクションだが、ケリンググループとしてはこのブランドをどういう方向に持っていきたいのだろうか。サラは優れたクチュリエだが、天才ではない。リーとは違う。ブランドの伝統をなぞった、破綻はないが驚きもないコレクションというのは酷だろうか。

アレキサンダー・マックイーン

トム・ブラウン・ニューヨーク

 トム・ブラウン・ニューヨークが見せたのはスカートとテーラードの組み合わせ。端正なシアサッカーやウールサージのテーラードジャケットと合わせるのは、ヒールシューズにプリーツスカート、シャツドレス。丸坊主のモデルがヒールの音を立てながら、しずしずと歩く。ネット上では、トムのコレクションを「ジェンダーを超える提案」だとか騒ぎ立てているが、そんな大それたことは考えていないように思える。第一、今やキャットウォークで男性がスカートをはいたところで、なんの驚きもない。性差を超えるクリエイションでは、「コムデギャルソン」がすでに何年も前にスカートルックを出している。今の時代の服の有り様に対して、それを超える新しさとはいったい何なのか。トムが考えたのは、もっと親密で、ちょっとしたユーモアといったところだろう。

トム・ブラウン・ニューヨーク





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