日本FIT会ニューヨーク支部は、大直(山梨県市川三郷町)の「紙和」のプロデューサーを務める一瀬愛さん=写真=の講演会を開催した。紙和は今年創立10年を迎えた。一瀬さんは歴史を踏まえつつ、どのようにブランドを構築してきたかを語った。
世界に出せるブランド
大直がある山梨県市川三郷町は、1000年続く和紙の産地だ。07年まで、大直がつくっていたのは和風小物だった。創業者の三女である一瀬さんは、「和紙だから和風というのではなく、自分で使いたいもの、アパートやマンションに飾りたいシンプルなラインをつくりたい」と考えた。「現代のくらしで使える和紙製品」をテーマに、世界に出せるブランドを目指したのである。
工業デザイナーの深澤直人氏にデザインを依頼したのは、深澤氏がディレクションしているMUJI(無印良品)が「年齢層が幅広く、男女問わず使えるもので、そういうものを目指したいと思ったから」と一瀬さんは振り返る。
〝ダメ元〟で深澤氏を訪ねたところ、「うん、面白いかも」とすぐに引き受けてもらえたそうだ。その3カ月後に深澤氏からプレゼンテーションされたものが、ほぼ今の商品。「しわがつくととれない」欠点を逆手にとって、ブランド名は「紙和」になった。
23カ国・地域に輸出
今や23カ国・地域に輸出している紙和だが、国によって受け取られ方が異なる。フランスではテクスチャーが好まれ、台湾ではデザインが好まれ、イタリアではファッションアイテムとして扱われているという。売り場の打ち出しも、「紙」「経年変化」などさまざま。「軽さは目指していなかったけれど、今では軽さが売りになっている」と一瀬さん。
「いろいろな人が使えるようにしておけば変化をつけやすい」と考えて、ホームページでも自らは語らず、静かに伝える方針をとってきた。一方で、「お客さんが、頼んでいないのにSNSで商品について熱く語ってくれる」現象に助けられた部分もある。
一瀬さんは、今後10年は、紙を糸にしたり、編んだり、折ったりして、紙という素材の可能性をさらに広げていきたいと考えている。うるしで柄をつくったり、熱加工して立体成型できるアクセサリーをつくったり、新しいラインで活路を開くことにも期待している。

(ニューヨーク=杉本佳子通信員、写真も)