中国で高速鉄道駅から地下鉄に向かう大行列を抜け出て一息ついたところで「現金で10元持ってないですか」と若い女性から声をかけられた。現金がなくて地下鉄の切符が買えないと言う。「10元はスマートフォンの『微信』(ウィーチャット)で払う」からと。新手の詐欺かと疑いながら、QRコードを差し出すと、「これじゃない」とスマホを操作され、別のコードを読み取られた。支払い専用で朋友圏(友達のグループ)には登録されないのだ。スマホに入った10元はすぐに自分の銀行口座に送金できて一件落着。
ひと安心して、ふと気づいた。さっき乗ってきた高速鉄道の切符は取材先の社員にスマホで買ってもらい、微信で支払ったのだった。ラーメン屋で食べ終わった後に財布を持っていないのに慌てた時は、店員に微信で送金し、支払ってもらったのを思い出した。
日本では同様のやり取りを想像しにくい。キャッシュレス化を進展させているのはIT(情報技術)だけではなく、生のコミュニケーションも大きいと感じた。(近)