未知の魅力 深圳の消費市場

2015/04/24 17:21 更新


 中国・深圳。香港の向こうの工業都市といったイメージを持つ向きも少なくないだろうが、近年は金融や情報通信、サービス産業が盛んな大都市に変貌(へんぼう)を遂げている。80年からの30年余で人口は400倍近くにまで増え、経済成長も中国全体を上回る伸びで拡大している。

 支出に関しても上海や北京に比肩する大きさで、旺盛な消費の受け皿となる商業施設も「従来型」では満足できない層に向けた「最新型」の計画も進んでいる。15年開業予定の高速鉄道は、深圳の政治とビジネスの中心地、福田と香港をわずか16分ほどで結ぶことになり、深圳は香港と一体化しつつ、さらなる発展が見込まれている。

■華南の「東京」

1⃣
1⃣

 深圳は、中国珠江河口の広州、香港、マカオを結ぶ三角地帯を中心とする地域を指す「珠江デルタ」の東に位置する貿易都市。香港の北側に隣接するが、西側と南東側は海に面しており、貿易に有利な条件が整っている。

 中国には1000年以上の歴史をもつ都市も少なくないが、深圳のそれはわずか35年ほどと若い。都市としての歴史は、80年当時の最高指導者、鄧小平の「改革・開放」政策により、中国最初の経済特区として開かれたことに始まる。

 それ以前の深圳は人口3万人ほどの漁村だったが、経済特区指定以降の経済発展により、人口は実に400倍近い1100万人を数えるまでに増えた。

 ある香港の英国系不動産サービス業のディレクターは「国のバックアップを受けて、〝奇跡的〟な発展を遂げた」と話す。

 例えば、深圳の不動産の賃貸価格は、80年ごろは100平方㍍で1000元だったのが、今では5万元となったという。50倍まで高騰するのに深圳は35年かかった計算だが、香港ですら65年を要した。深圳の急成長ぶりがわかる。

 人口の構成内容はユニークだ。工業化の過程で内陸の農村部などから出稼ぎ労働者が集まったこともあり「移民都市」という性格を持ち、かつてはひと稼ぎした後は田舎に戻るケースが多かったが、最近では、家族を呼び寄せるケースも少なくないという。

 年間を通じた気候の温暖さ(12年の平均気温23.1度)や都市計画に基づく緑地の多さから「中国で住みたい都市ランキング」では、海南島に次ぐ第2位となっている。平均年齢は28歳と若く、老人が少ないのも特徴だ。

 人口のざっと半分が国内からの移住組だと言われており、成功の機会を求めて移り住む人が引きも切らず、新陳代謝が活発になっている。主力産業である金融や情報通信、サービス業に職を求める、学歴の高い若者が多いのがかつてとは異なる。

 面積と人口は、東京とほぼ同じ。深圳の面積が1953平方㌔、人口は約1100万人に対し、東京はそれぞれ2187平方㌔、約1300万人だ。さしずめ、華南の東京、と言えばイメージが湧くだろうか。

 

(出典:JETRO)
(出典:JETRO)

 

 ■製造業からサービス業へ

 改革・開放以降、莫大な外資を誘致し製造業が盛んになったが、労働コストの上昇に伴い、工場が内陸部に移転、その後は、中央政府の政策もあり、金融やハイテク、IT(情報技術)、サービス業へとシフトした。

 90年には深圳証券取引所がオープンし、米ダウ・ジョーンズなどによる13年の調査では、世界15位の金融センターと評価され、中国では上海、北京に次ぐ3位の座を占めている。

 情報通信分野のメッカでもある。中国全土で若者に絶大な人気を誇るSNS(交流サイト)のテンセントや、日本でもスマートフォンなどを販売する通信機器メーカー、ファーウェイが本社を置く。出稼ぎ労働者の受け皿として、サービス産業も発達。欧米式のサービスが標準の香港の影響で、飲食業などでも比較的サービスには熱心だと言われている。

 また、最近ではクリエーティブ分野でも注目されており、中国の大手5大デザイン事務所のうち、2社が深圳にある。

(出典:JETRO)
(出典:JETRO)

 短期間で都市と呼ばれるようになった深圳だけに、経済成長は目覚ましい=グラフ①参照。

 過去10年にわたり2ケタの経済成長を続け、1人当たりのGRP(域内総生産)は、13年には13万6947元に達した。可処分所得と同様に、中国第1位を誇る。また、13年度の総輸出入額は5373億㌦に達し、これも中国1位と貿易都市の面目躍如である。

 経済の発展に伴い、消費支出も目覚ましい。

 11年にジェトロ(日本貿易振興機構)がまとめた資料によると、上海、北京、広州、深圳の4大都市のなかで、消費支出は北京を除く2都市に比肩しトップクラス。可処分所得も高く(09年には全国一)、100世帯当たりの自動車保有台数も32.9台と最も多い。

(出典:JETRO)
(出典:JETRO)

スクリーンショット 2015-04-23 14.57.12 

 実際、小売市場も成長しており=グラフ②、13年の消費品小売総額の伸びは10.6%(4434億元)と上海の8.6%(8019億元)を上回っている。

 消費の受け皿であるショッピングセンターも00年以降、開発が活発だが、他の都市同様に、ラグジュアリーゾーンやグローバルなチェーン専門店など、一般的な構成にとどまっている。ただ、15年後半からソフトオープンする福田の「アッパーヒルズ」など、日本の都市型商業施設に見劣りしないコンセプトの複合施設も出てきた。

 

【上】ココパークは06年開業。OLなど若い女性が主対象で高額品は少なく、カジュアルな品揃え 【下】04年に開業した深センの代表的なショッピングセンター、万象城はラグジュアリーブランドがひと揃いする深セン市の先駆的存在。中国全土でも3番目の売上額を誇る 【上】ココパークは06年開業。OLなど若い女性が主対象で高額品は少なく、カジュアルな品揃え
【下】04年に開業した深センの代表的なショッピングセンター、万象城はラグジュアリーブランドがひと揃いする深セン市の先駆的存在。中国全土でも3番目の売上額を誇る

 香港における深圳市の代理会社として発展してきた深業グループの関連会社、深業置地は200億元を投じ、深圳の政治・ビジネスの中心地、福田に大型複合施設「アッパーヒルズ」(総面積120万平方㍍)の建設を進めている。15年後半のマンション受け渡しを皮切りに、商業施設(16万7000平方㍍)、オフィスタワー、ホテル「マンダリンオリエンタル」と順に開業する予定だ。周囲の緑を生かした開発や上質な暮らしの提案など、日本の都市開発と遜色(そんしょく)ないコンセプトは他に類を見ないものだ。日本のテナントも積極的に導入したいと話す同社の上席商業コンサルタント、ピーター・コックさんに話を聞いた。

■15年早くても時代は追いつく

――開発のコンセプトが中国では珍しい。

%e3%83%94%e3%83%bc%e3%82%bf%e3%83%bc%e3%81%95%e3%82%931_Fotor 前職の香港のスワイヤー・グループの不動産会社で様々な開発を手掛けてきたが、深圳のこの事業では他にないものをつくりたいと考えた。周囲の緑を生かした開発はとても珍しいと思うが、背景には深圳市がこうしたコンセプトに熱心だったことがある。

 毎週2万人が訪れる周囲の公園とアッパーヒルズをつなげ、公園から施設への入り口(3階)にはシャワールームも設ける。建物の屋上にあたる3階は横丁のようにして、まちの雰囲気をつくりたい。都市のなかに居ながら、鳥の声が聞こえるような開放的なつくりに魅力を感じてもらえるはずだ。

 だから、商業テナントも、グローバルなチェーン店やラグジュアリーブランドだけでは代わり映えがしないので、日本のユニークなブランドやショップも誘致したい。

 また「ロフト」という区画には、デザイン事務所や広告会社など、クリエーティブな仕事をする人たちに貸したいと思っている。深圳は若い労働者が多く、新しいビジネスを創造する起業家も多いからだ。  

――そうした考え方は中国では早すぎるのではとの指摘もある。

 皆が考えているより深圳住民の進化は早い。今の中国人は海外留学などして外の世界を見ているから、欧米や日本とも時差はない。マンションは部屋を小分けにするのではなく、欧米風にしているのもそのためだ。

 深圳市民は香港と同様に都市型の働き方をしていて、平均年収は上海、北京に次いで3番目。にもかかわらず、商業においては上海ほど競争は激しくない。

 日本人から見れば、上海、北京の商業環境についてはイメージがつきやすいと思うが、深圳はほとんど未知だろう。上海などで日本企業が苦労しているのを知っているだけに、ぜひ深圳をお薦めしたい。消費パワーは両都市にひけを取らないからだ。

 人に先駆けてやるのが自分の使命だと思っている。15年早いかもしれないが、必ずこの考え方が受け入れられる時は来る。ここに自分が開発を指揮する意味がある。他人にやられるよりは余程いいと思っている。

 

手前がオフィス棟、奥の4棟がマンション、中央の低層部が商業施設やサービス部門、手前には深圳市のオフィスやデザイン博物館が入居する(完成予想)
手前がオフィス棟、奥の4棟がマンション、中央の低層部が商業施設やサービス部門、手前には深圳市のオフィスやデザイン博物館が入居する(完成予想)

 

■ハードだけでなくソフトも充実

――改めてアッパーヒルズをどんな施設にしたいと考えているのか。

 深圳は35年走り続けてきた。これまでは住民にとっては出稼ぎして帰るだけのお金もうけのまちに過ぎなかったが、ここ数年で見直されている。国内の中では緑が多くて環境が良く、文化の香りも感じられるようになってきたからだ。地元に残って家族を呼び寄せる住民も多くなってきた。

 さらに、ただ生活するだけでなく、高いニーズを求める層も増えている。これに応えるのがアッパーヒルズだ。

 深圳に限らず、中国人のお金に対する考え方が変わってきている。お金をためて子供に残すという考え方が支配的だったが、最近は、今の生活や暮らしぶりを豊かにしたい、消費そのものを楽しみたいという風に変わってきたのだ。

 そんな富裕層が関心を持つのが健康や品質、デザイン性だ。だから、アッパーヒルズは、つくり(ハード)だけでなく、テナントや文化(ソフト)にも注意を払っている。建築資材は自然で体にいいものを使っているし、なるべくこの地に自生している木は残している。

 サービスや商品をネクストレベルにし、香港にまで行かなくても済むようなレベルに仕上げる。ここがひとつのシティー(まち)になる。

――中国の経済成長がスローダウンしている。心配はないか。

 今は「健康な調整期」だ。中央政府の倹約令が高額品の売れ行きに響いているのは確かだが、長期的には「うみ」も掃除され、健全になる。バブルがどこまでも膨らみ続けることはできないから、今の事態は当然だろう。しかも、マクロの成長の鈍化と市場の動向は同時期には起こらない。

 経済の流れは良い時もあれば悪い時もある。落ち込んでいる今、投資できる我々は有利な立場にある。心配より期待の方が大きい。

 



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事