長年、ある大手アパレル企業で働いていた人に聞いた話だ。昭和が終わり、平成に入ってしばらくすると、自社のブランドを出店する際、百貨店でもファッションビルでも、客数の多さと、どれくらいの売上高が見込めるかが立地選びの基準になっていた。
冬のコートなど単価の高いアイテムは、新しい提案に知恵を凝らすだけでは、前年実績を上回る売り上げを作ることが難しかった。どんなデザインをどれだけ作るか、客の反応やその年の気温低下のタイミングなどをぎりぎりまで見定め、冬のセール直前に一気に期中生産を仕掛けてプロパーで売った。
冬以外のシーズンも、自店だけでなく他店の売れ行きを横目で見ながら、ヒットする確率が高い商品は何なのか見極め、クイックレスポンスで店頭に投入して確実に売り上げを取ろうとした。
しばらくはそれでうまくいったが、同じフロアに店のある競合ブランドの多くも、この会社と同じやり方で商売するようになった。いつしか何をいつ、どんなタイミングで売るか、自社と他社の動きがシンクロするようになった。
後追いや前年踏襲の応酬を繰り広げた結果、販売手法も商品も同質化してしまい、そのフロアのどのブランドも売れなくなった。どれだけ売るかより、誰に何を届けるのかを出発点にしないと服に限らず、どんな商売も行き詰まる。