ロンドン・ファッションウィーク・ジュン2022 南国へ思いをはせたハッピーなクリエイション

2022/06/16 11:00 更新


AGR

 【ロンドン=若月美奈通信員、ライター・益井祐】23年春夏コレクションの先頭を切って、ロンドン・ファッション・ウィークが開催された。ジェンダーレスなイベントだが、時期的なこともありメンズを主力とする若手が中心。協会による新進デザイナー支援プロジェクト「ニュージェン」に選ばれたブランドに加え、有力セレクトショップなどでも人気の2ブランドがショーデビューした。キューバ、マヨルカ、アフリカの国々といった常夏の地に思いをはせたオプティミスティックなコレクションが揃った。

 アリシア・ロビンソンがデザインするAGR(エージーアール)は初夏の好天に恵まれた週末、プライド月間に呼応するようなレインボーカラーあふれる作品でデビューショーを披露した。横編みからジャージー、クロシェまでニットを駆使したメンズおよびレディスウェアは、ノッティングヒルカーニバルなどロンドンの夏のストリートシーンに、ドイツのアーティスト、カタリーナ・グロスのインスタレーションや「ソニア・リキエル」のボーダーニットなど、さまざまな要素をミックスして、ハッピーな気分を盛り上げる。シグネチャーのマルチカラーニットに加えてリサイクルデニムのシリーズも充実し、パッチワークやバイカラーのかすれたオーバープリント、ギラッと輝くフォイルプリントで華やかに飾る。フォイルプリントをクロシェのシャツやミニドレスにも施し、チェーン柄のようなメタリックな1着に仕上げた。会場はアイコニックなナイトクラブ、ファブリック。ナイトクラブのドアガールの経験もあるロビンソンによるロンドン・ナイトシーンへのオマージュは、タイダイのボディーコンシャスウェアなど随所に見られる。

AGR

 カルロタ・バレラのデビューショーの会場はポートベローの高架下のスケートパーク。もっともそこに登場したのは、テーラードをベースにした清涼感のあるメンズウェアで、01年のクリスマスホリデーに初めて訪れて以来何回も旅行したキューバでの思い出をコットン、リヨセル、リネンの天然素材でつづるコレクションに投影した。切りっぱなしの共布のベストを一体化したシャツ、背中にストリングが走る前身頃だけのベスト、脇の下が空いたテーラードジャケット。スーツやシャツに乗せられた涼しげなシャドープリントや開襟シャツが常夏の国の日常を思わせる。

カルロタ・バレラ

 ロビン・リンチの出発点は1983年に母がマジョルカ島で買ったスマイリーが散りばめられたTシャツ。悪趣味でありながらも魅力的な土産やホリデーから発想を広げて、リゾートの要素とリンチらしいスポーティーな要素を融合させた。ロックダウン以降、さまざまなスポーツブランドと協業してデッドストックを使った服などを作ってきたが、今回は全てオリジナル。リサイクルナイロンやオーガニックコットン、アイリッシュリネンなどサステイナブル(持続可能)な素材使いはそのままに、ひとひねりのワードローブを揃えた。グレーのパンツに散るオレンジのドットはよく見るとカニ。シャカシャカッとした半透明のナイロンパンツはビーチマットを思わせる。ハッピーなアイデアが鮮やかな朱色と黄色を基調とした新作に盛り込まれた。

ロビン・リンチ

 カシミはデジタルによるイメージ映像とデザイナー自らが説明する展示会で新作を発表した。ミリタリー、ノマド、テーラーリングをベースに中東と西欧のエッセンスを融合したコレクションは今回、鮮やかなブルーをキーカラーに展開された。サハラ砂漠の遊牧民、トゥアレグの服の色だ。「サハラ」「フリーダム」などのアラビア文字が刺繍されたフーディーやフルレングスのバルーンドレスなどの服だけでなく、映像やルックブックのバックグラウンドもこの青で、モノトーンやカーキの服を引き立てる。毎シーズン出している迷彩はより抽象的で花のわた毛が舞うような優しい柄となり、袖にシャーリングを走らせたノーカラーのトップとパンツのセットアップなどに乗せられた。翼を広げた鳩の写真と共に、真珠を模したビーズ飾りがアクセントになっている。紀元前から採取されていたと伝わるものの現在は衰退してしまった中東の天然真珠へのオマージュで、少しいびつな真珠ビーズがトップに散り、ビーズテープがハーネスのようにテーラードジャケットやシャツに重なる。

カシミ

 マーティン・ローズの会場となったのは南ロンドンのボクソール。最近ではアメリカ大使館が移転し、高級高層マンションが乱立、すっかり様子を変えてしまった。しかし以前は鉄道の高架下にナイトクラブやゲイのセックスクラブが並ぶラフなかいわいであった。そんな高架下のスペースで久しぶりのショーを行った。トレンチコートやスポーツジャケットの襟や袖はそのままにボディーは極端に絞られていた。一点を見つめて歩くモデルは、明け方に見た瞳孔開きめのクラブ帰りキッズのよう。彼らがクロークで間違えて受け取った(または勝手に取ってきた)、体に合わない他人の服を着ていたのを思い出す。クラブイベントのロゴ風グラフィックのタイトTシャツに、ジーンズやショーツのフロントジッパーにつけられたロッカーキーのチャームと、90年代ライフは依然ブランドのアイデンティティー。ゆったりとしたコートやスーツなどマーティン節は健在だった。

マーティン・ローズ

(写真=AGRは大原広和、他はブランド提供)



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