テキスタイル、ファッションデザインにテクノロジーを融合させ、新しい領域を開拓していこうという試みがされている。〝スペキュラティブデザイナー〟の川崎和也さんは、微生物を培養して作ったレザー調素材や、機械学習を用いて布地の無駄を一切なくす独創的な服のパターンなどで洋服を制作する。海外やアートシーンからも注目されるが、川崎さんの今の目標はこれらの実用化、社会への実装だ。
(中村惠生)
空想の未来から発想
耳慣れないスペキュラティブデザインとはなにか。英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のアンソニー・ダン教授が提唱した考え方で、目の前の課題解決のためのデザインではなく、空想した未来の姿からデザインを発想する考え方だという。
川崎さんもこの考えに刺激を受けてスペキュラティブ・ファッションデザイナーを名乗り、研究者としての学術的探求と並行しながら、テキスタイルやアパレルでの制作・発表に取り組んでいる。
具体的なアプローチの一つは、バイオテクノロジーとの融合だ。発酵飲料のコンブチャ(紅茶きのこ)を培養したレザー代替素材による〝バイオロジカル・テーラーメード〟で、文化庁メディア芸術祭などクリエーティブ関連の複数の賞に選ばれた。
コンブチャは、酢酸菌やイースト菌が培養液中でスコビーというゲル状のセルロースを作り出す。これを乾燥させてレザー調の素材として使い、着用者の3Dデータに合わせた金型で立体形状のウェアに仕上げた。
川崎さんによると、今、世界では17年にステラ・マッカートニーと契約して話題になった米ボルトスレッドや、キノコの菌糸から作るレザーなどバイオテクノロジーと融合した素材開発が一つの流れになりつつある。「『実験』から『実装』につなげていくのが僕らの仕事。テック企業などに『こんな素材、こんな方向性がある』と提示していきたい」という。

布の無駄を排する
バイオとはまた異なるアプローチで取り組んでいるのが、機械学習との融合だ。コンピューターを使ったアルゴリズムにより、短冊状と三角のパーツを組み合わせて一切の布の無駄なく服を作る「アルゴリズミック・クチュール」を発表し、こちらもクリエイティブ関連の賞を受けた。
機械学習というと難しい印象があるが、「『パイソン』『グラスホッパー』のようなプログラムやツールを使えば可能。サステイナブル(持続可能)な衣服製造のプロセスのために機械学習が生かせる」という。

バイオテクノロジーも機械学習もファッションにとって遠い世界のように思えるが、「例えば、新しく発明された合成繊維が今では当たり前になっているように、次の時代の当たり前が登場してくる」と未来の姿を思い描く。研究者、デザイナーとしての顔だけでなく、今、起業家としてテクノロジーをどう社会に実装するか考えているという。

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