物があふれる中で、思いを込めた商品に客が共感し販売につながっている。企画だけではなく、魅力を届けるPRまでが一体となって奮闘し、客も巻き込みながら販売する商品は盛り上がりを見せている。企画、PRに話を聞いた。
“好き”が支えるこだわり 「見るだけでワクワクする」販促に
「ジェラートピケ」の「トイプードルシリーズ」のぬいぐるみがヒットしている。22年11月からウェアと連動して販売したところ、SNSで「可愛すぎる」と大きな反響があり、即完売した。ECサイトの再入荷待ちの数も多かったため、23年春に色違いを企画し、初回の約20倍の数量を販売した。自他共に認める〝ジェラピケ好き〟の企画本部ジェラートピケサブディレクターの時田和加奈さんの物作りへの熱意とファッション誌での編集経験を生かすPR事業本部PR2部ジェラートピケチーフプレスの三宅あゆみさんによる効果的な打ち出しがヒットにつながった。
ジェラートピケのぬいぐるみはギフトよりも自分用の需要が高い。今まではクマやウサギのモチーフが多かったが、トイプードルは人気の犬種のため「絶対に人気シリーズになる」と意気込んで作った。展示会の反応も良く、発売前に公開したモデル画像の効果もあって、販売後すぐに完売した。購入者のSNS投稿やレビューの高評価などから、再販の申し込みが相次いだ。
人気を集めた理由は本物に近いフォルムや触り心地、くたっと寝転んだ愛らしい姿勢だ。ビーズとわたの量を計算し、均一にしないことで自由にポーズがとれ、抱いた時のフィット感も出した。購入者からは「一人暮らしでペットが飼えない代わりに買った」「愛犬にそっくりで可愛い」「毎日一緒に寝ている」という声が多く寄せられた。その後も犬のシリーズとして「ビションフリーゼシリーズ」を出したところ、好評だった。
ファン目線の物作り
「ブランドの一番のファンであることが自分の強み」と時田さんは語る。入社10年目で、今年からサブディレクターに就任した。服飾の専門学校卒業後、地元のアパレル会社にデザイナーとして入社し、量販店向けのルームウェアを作っていたが、当時からジェラートピケが大好きで「本当に好きなものを作りたい!」との思いから上京、同社に就職した。面接時にはウェアや雑貨のデザインを書いた企画書を持ち込み、「やる気とブランドへの思いをアピールした」という。
今はトイプードルシリーズのほか、推し活カラーのホビートートバッグなども手掛ける〝ヒットメーカー〟だ。社内での新商品の検討会には特に力を入れている。プレゼンに向けて多くの資料を準備し、「お客様に届けたいものが何なのか」を、他の社員にもしっかり伝わるようにしている。「物作りは時間がかかるけれど、お客様に幸せを届けるこの仕事が本当に楽しくて、生きがいです」と笑う。
ぬいぐるみの製作は、工場に修正・変更のポイントを伝えにくいため、サンプル作りに手間と時間がかかる。最初のサンプルには何時間も手作業でビーズやわたを出し入れしながら、顔のバランスや全体の立体感を数ミリ単位で調整する。展示会でお披露目した後も、量産に入るまで何度も修正することがあるという。「目や鼻に冷たい素材のビーズやボタンは使わない。ふわふわさと温かみが大切」。素材選びや手刺繍で仕上げる顔のパーツなど、全てにこだわりが詰まっている。
商品に合わせた見せ方
「ジェラートピケは部屋の中のファッションなので、自由に好きなものを楽しんでほしい」というのはチーフプレスの三宅さん。タウン誌とファッション誌で編集を経験した後、同社にプレスとして入社、今年5年目だ。販促の仕事では前職で培った文章力を生かし、撮影時も工夫を凝らす。ジェラートピケは品番数が多く、他ブランドに比べて協業も多いため、ファンの年齢層や求めるファッションのテイストも幅広い。「商品の特徴とそのターゲットに合わせて、打ち出しを変えることを心掛けている」と話す。
ECサイトやSNSに使う商品を撮影する際は一つにつき何パターンもの写真を撮る。スイーツモチーフのアイテムは皿の上でおいしそうに見えるように撮ったり、「ジェラートピケならではの工夫」に力を入れる。「どこで撮ると映えるかを考え、見るだけでワクワクするサイトを作っている」。トイプードルのぬいぐるみはモフモフした素材が映える白い部屋を使い、人が抱っこした状態やお尻からの姿など、見る人にかわいらしさが伝わるポーズで撮った。
ヒットがチームに活気
トイプードルシリーズを発売した22~23年秋冬は、円安や生産コスト上昇の影響で商品の価格を上げざるを得ない状況だった。そんな中、企画部からプレス、店頭までのチームが一丸となってトイプードルシリーズを打ち出し、オリジナルのヒット商品を生み出せたことは大きな自信につながったという。時田さんも三宅さんも「ファッションやブランドに対する自分の〝好き〟が、お客様に届くことが仕事のやりがい」だと口を揃える。
(繊研新聞本紙23年7月12日付)