多様性の時代へ踏み出す
働く女性が増えた半面、管理職に就きたがらない女性も多い。能力が認められながら昇進を拒む女性たちの意識改革や、男性の育児休暇・時短の活用などに取り組む企業が目立つ。
ためらわず
ワコールホールディングスの塚本能交社長は「能力はあるものの、リーダー職へのキャリアアップに躊躇(ちゅうちょ)している女性を支援する環境作りを進めている」と話す。従業員の多数が女性で、「女性の活躍によって支えられているといっても過言ではない。しかし、女性管理職の比率は9月末時点で約19%とまだまだ少ない」ことは課題の一つ。今後も「女性たちのリーダーシップが発揮され、さらに活躍してもらうための仕組み作りに取り組んでいきたい」考えだ。
女性たち自らが心に作っている壁は、大企業だけの課題ではない。中小企業の多い靴の製造卸の中で、輸出にも積極的なドゥ・ラマーレ(東京)。デザイナーでもある今西優子専務は、「責任を持ちたくないから管理職を求めない女性が多いのでは」という。「男女雇用機会均等法」施行とほぼ同時に社会人生活を様々な職場で過ごし、男女が対等に議論する風土の会社が少ないと感じてきた。デザインの仕事も部分的に位置づけられ、物作りの現場や売り上げに対する責任とは切り離されがち。しかし、それはもったいない。「能力を生かし、責任を持つことで、もっと多くの女性がビジネスに喜びや楽しさを感じることができるだろう」と考えている。
選択できる
日本は97年に、片働き世帯の数を共働き世帯が抜き、就業女性が増え続けてきた。ただ、パート・アルバイトなど非正規雇用が多く、正規雇用の女性はそれほど増えていない。一方、全体の労働時間は30年でかなり減っているように見えるが、週に60時間以上残業する男性は今も多い。社会全体に非正規雇用が増えた分、正社員の男性に超過残業がしわ寄せする現実。均等法施行の頃とほぼ同じ〝土俵〟があるとも言え、そこに上がれない人々は当然いる。
かつて、女性の昇進には「ガラスの天井」があると言われた。同時に、天井を仰がなくても、様々な見えない壁が存在した。今、天井も壁も随分と遠いところにある。ここまでに至った取り組みは、男性がもっと柔軟で多様な働き方を推進する際にも応用できるはずの財産だ。
オンワード樫山の初の女性役員、上野恵子執行役員は、育休など様々な制度が改善され、さらに生かす時代になったとした上で、「環境の整備は大事だが、働く本人たちがいかに前向きに輝いているかが重要」と話す。一緒に働く者同士の思いやりと理解、本人の意志が揃うことを重視し、気軽に相談できる風土作りに気を配りたいという。
そうした大らかさが、心の中の見えない壁を越える要素の一つだろう。「大事なのは、選択できること。様々なライフスタイルの環境作りは社会、企業の共通課題」(肥塚見春高島屋代表取締役専務)だ。多様性が欠かせないファッションビジネス業界では、性別だけでなく国籍や年齢、障害の有無、LGBT(性的少数者)といった多様な人材への対応がすでに進み始めている。新しい時代に見合う働き方の構築も、意外に早く訪れるかも知れない。
(若狭純子)
(繊研新聞 2015/12/21 日付 19379 号 1 面)