ベテラン記者によるジーンズの深いぃ話-5

2015/05/03 08:02 更新


 ジーンズを担当して20年の繊研新聞記者が、方々で仕入れてきたジーンズ&デニムのマニアック過ぎる話を、出し惜しみせず書き連ねます。ビンテージジーンズは作り手だけでなく、はく方のこだわりも凄かった―――。

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5、はいたままお風呂に入るのが流行~ビンテージの話その2~

 ビンテージジーンズの作り手のこだわりは前回書いたが、はく方のこだわりもすごかった。

 ストーンウオッシュも水洗いもしていない、糊のバリバリに付いた生デニムのジーンズを買ってきて、1年間くらいずっと洗わずにはき続けるのが通。途中で洗ってしまうと、せっかく付けたシワのクセがとれてしまうのだそうだ。

 そして1年くらいたったところで、えいやっと洗う。それも水道水は使わない。水道水には塩素が入っているので、いっぺんに色がとんでしまうから。もちろん洗剤を使うのもだめ。井戸水だけで洗うのが通なのである。洗った後は、裏返して陰干しする。そうするとシワになっていた部分とそうでない部分の濃淡の差がはっきり出て、マニアにはこたえられないのだそうだ。

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 普通の服なら、新品のときが最高で、着れば着るほどくたびれていく。ところがジーンズは新品のときがスタート。そこからいかに自分の体形に合ったものに育てていくか、座りジワやポケットなど擦れる部分にあたりを付け、いかに見事な色落ちを表現していくか。すべて買ったときから始まる。そこがジーンズの魅力だ。

 90年代後半のビンテージジーンズブームよりもずっと前、ジーンズをはいたままお風呂に入るのがはやったことがある。生デニムのジーンズを数週間から数カ月ずっとはき込んだ後、はいたままの状態でお風呂に入り、お湯で糊を落とすとともに、生地を縮めて自分の体形にフィットさせるのだ。79年に公開されたイギリス映画「さらば青春の光」の中にそのシーンがあり、ぴったり細いジーンズをはくモッズファッションにあこがれた若者たちに広がった。

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 お湯に酢と塩を入れると色落ちが抑えられるとか、お湯の温度は何度がいいとか、いろいろこだわりがあったようで、これを読んでいる人の中にも経験のある方がいるのではないだろうか。

 昔のカウボーイも晴れの日を選んで、ジーンズをはいたまま川に入っていたそうだ。昔のジーンズは生地に防縮加工やねじれ防止の加工を施していないので、洗うとウエストで1インチ(約2.5センチ)、レングスで2インチぐらい縮む。さらに生地がねじれて、脇の縫い合わせの線が腰から裾に向かって内側にねじれてきた。そして自分の体形に合ったジーンズになるのである。
 
◇工場のおばちゃんが嫌がった裾上げ
 
 ところが90年代後半のブームの時は、「ビンテージジーンズは洗わないのがいい」ということだけが一人歩きしてしまい、困ったことが頻発した。ビンテージジーンズは裾をチェーンステッチ(環縫い)という特殊な縫い方をしている。環縫いによってできる裾の絶妙なあたりがマニアにはたまらない。通常、ジーンズショップに置いてある裾上げ用のミシンでは環縫いはできない。だから、ビンテージジーズを裾上げするときは環縫いのミシンを置いている縫製工場に出す。

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 洗ってから裾上げに出してくれればいいのだが、「洗わないのがいい」という言葉を信じこんだ人たちが、1年くらいはきこんだ、においの立ち上ってきそうなジーンズをそのまま出してくるものだから、縫製工場のおばちゃんたちから大ブーイングだったそうだ。あるとき、ビンテージジーンズのメーカーの人たちに集まってもらい座談会を開いたことがある。そのときある人が声を大にして発言していた。「ジーンズは洗え!」と。

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