東日本大震災8年 福島県浪江町のキャニオンワークス

2019/03/11 06:30 更新


 原発事故の影響で今も住民のほとんどが他地域で暮らしている福島県浪江町。この地で43年前に創業したバッグ製造主力のキャニオンワークスは東日本大震災後、避難先の群馬県の仮工場を経て、3年後にいわき市での工場新設にこぎつけた。新たな挑戦としてファクトリーブランドの開発にも力を入れる。半谷正彦社長は「国内工場の魅力を発信することで、若い世代の採用、今まで培ってきた技術の継承につなげたい」と話す。

(大竹清臣)

 本社は街中にあったため、地震や津波の被害はなかったものの、原発事故の影響で避難生活を余儀なくされた。避難場所を点々とするなか、7月には群馬県の仮工場で操業を再開。一緒について来てくれた浪江町出身の従業員ら20人(ベトナムからの技能実習生含む)が当時、主力だった自動車のシートカバー生産を担った。翌年に先代から経営を譲り受けた半谷社長は「いずれ福島に戻りたい」との思いから、群馬では新たな採用ができなかったという。

日本製に活路

 ようやく14年にいわき市に移転し工場を新設した。自動裁断機や電子パターン縫いミシンなど新たに設備投資するとともに、祖業のバッグで日本製を強みにアウトドア分野を中心としたOEM(相手先ブランドによる生産)に活路を見いだした。海外生産シフトが激しい業界だが、大ロットに対応できないブランドや小売業から国産への需要も高まっている。同時に震災前から継続しているウェットスーツも縫製できるところが少ないため強みを発揮できている。

 数年前からファクトリーブランドの開発という新たな一歩を踏み出した。経済産業省が中心となり発足した「ふくしまみらいチャレンジプロジェクト」の一環でスタートした「CWF」では外部ディレクターの協力を得て、キャンプや登山用のバッグを販売する。今春には自社工場発オリジナルブランドを新たに二つ立ち上げる。山と釣りをコンセプトにバッグからギアまで提案する「ネルエピック」、タウン向けユニセックスのバッグ「マコール」。オリジナルブランドをスタートすることで、新工場の生産量を安定させるとともに、従業員のモチベーションを高める狙いもある。

新たなチャレンジとなったファクトリーブランド「CWF」

若い世代増加

 いわきの新工場では新入社員の採用を継続し、人手不足の中でも若い世代が増えている。全社で60人(震災前は約50人)。17年には営業拠点として東京オフィスを開設。「地元に雇用の場を提供したい」との思いから昨年4月に浪江町の工場も再開した。2年前に帰還困難区域を除いて避難指示解除となったものの、当時の人口2万1500人のうち1割未満しか居住していない現状だ。「ふるさとの復興のためにも、自社の持続的成長が大事」。半谷社長は常に前へ歩み続ける。

「今までやってきたことを若い世代にもつなげたい」と半谷社長


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