20日から25日まで、東京・渋谷ヒカリエや表参道ヒルズなどを主会場に、「アマゾン・ファッション・ウィーク東京17年秋冬」が開催される。ウィークに参加する注目ブランドのデザイナーに聞いた。
ステッカーシールを貼り重ねたようなジャカード織りのモッズコートに、刺繍を盛りに盛ったスカジャンなど、ギミックいっぱいのキャッチーなメンズウエアを作る。
刺繍などのテクニックはデビュー当時から得意としてきたが、ここ数シーズンは吹っ切れたように表現がパワフルになり、それに伴って認知も向上。
SNSでの拡散をきっかけの一つにして、「コレット」などの海外有力店もつかんだ。16年に「トーキョー・ファッション・アワード」に選出されたことを受け、今回初めてショーをする。
(聞き手=五十君花実、写真=加茂ヒロユキ)
〈プロフィール〉 79年群馬県生まれ。02年に東京モード学園を卒業し、アバハウスインターナショナル入社。
浅草のベルト工場を経て、「ミハラヤスヒロ」で約7年間シューズ企画を担当。
13年春夏に「ダブレット」設立。17~18年秋冬の卸先は、国内25社、海外約15店。
◆真剣なお店の言葉に、ゲンコツ喰らった
――16年春夏前後を境にして、表現がより自由で強くなった印象がある。変化のきっかけは?
15~16年秋冬まではジレンマの塊でした。自分が作っているものは正しい、力のある営業担当もついている。それなのに売れないのは何でだろうって。「(刺繍などが)すごいテクニックだね」とは言ってもらっていたんですが、それは僕のテクニックではなく工場のもの。それなのにチヤホヤされて、天狗になっていたんだと思う。
転機となったのは16年の春夏。一生懸命うちのブランドを盛り上げようとしてくれているお店からの言葉がデカかった。
(それまでのややシンプルなテイストから変えて)スケボー型のクラッチバッグや刺繍を重ねたスカジャンを出したら、「ウィズム」や「ミッドウエスト」のバイヤーさんに、「一体何がやりたいの?」「こんなに毎シーズンころころ変わったら、こっちもどうやって客を付いてこさせればいいか分からないよ」って言われたんです。お店は真剣に売ろうとしてくれているのに、自分はその思いに応えられていない。それがすごく痛くて、ゲンコツ喰らった気分でした。
変化のきっかけの一つとなった、16年春夏物のスカジャン
「ミハラヤスヒロ」で一緒だったパタンナーとニッターに手伝ってもらっているんですが、売り上げが立たなくて、当時はチームとしても瀬戸際でした。もう無理かもという時に、彼らが「自分も納得したいから、もっとデザインに関わりたい」と言ってくれた。
16~17年秋冬からは3人でとことん話して、オシャレぶって何かを参考にしたりするのではなく、ゼロから自分たちのオリジナリティに取り組む形に変えました。
2人には山ほどダメ出しされて、何だよと思うこともあったし、突っぱねることだってできた。でも、ここまで言ってくれる人たちすら納得させられないなら、誰にも響かないなと思って。2人の考えを超えないといけないことで、自分の中の限界が外れて、階段を1つ上がれました。実際、16~17年秋冬は反応も良かった。
◆うれしさの反面、怖さも感じた
――海外有力店での販売も続々決まり、1月の初のパリ展も盛況だったと聞く。
16~17年秋冬からコレットでの販売が決まったのは、恐らくインフルエンサーの益井祐さんのおかげです。益井さんが偶然16年春夏展に来て、スケボーバッグを買ってくれた。それをインスタグラムで見たバイヤーが連絡をくれました。まるで“わらしべ長者”みたいです。
パリ展も想像以上に多くのバイヤーが来てくれた。昨年末に米ロサンゼルスの「424フェアファックス」から連絡があって、彼らとコラボ商品を作ったんです。それを彼らのパリ展に出してくれて、バイヤーをこちらの展示会にも流してくれました。だからこれもわらしべ長者。あとはやっぱり、コレットや「ドーバーストリートマーケット」の影響力だと思います。
17年春夏のルックブックから
うれしさの半面、怖さも感じました。沢山の人が来てくれたのは、僕やブランドだけの力じゃない。ここでどんどん広げたら一発屋になる匂いがするし、資金繰りもパンクしてしまう。だから殆ど断りました。既存店からの受注金額を増やせたことは良かったと思います。
国内でも、「売れている」と言ってもらえることが増えましたが、供給が足りないから完売しているというは強い。ただ、飽和させたら飽きられてしまうことは常に意識していたいと思っています。
もちろん、スタッフは雇いたいし、自宅と別に事務所も借りたいです。でも、新規の取り引き先に突然大量のオーダーをもらって、万一売れ残ったら、今までファンを作ってきてくれたお店に申し訳ない。色々と葛藤しながらやっています。
◆ショーをするのはこれっきり
――17~18年秋冬物や、初のショーで表現したいことは。
今シーズンは95年のTVドラマ、『未成年』からイメージを広げました。ドラマを見返してみると、「誰かと比べるのはやめてくれ、人間の価値を測るメジャーなんてどこにもない」といった台詞があって、やっぱりいいんですよ。
今回のコレクションでも、サイズをぐちゃぐちゃにして作って、サイズが合っているかどうかよりも、その人なりに着るのが一番かっこいい、ということを表現しています。
ミハラヤスヒロへの入社前に、三原さんへのアプローチとして送り続けてい たデザイン集には、今の作風にも通じる楽しいアイデアがいっぱい
普通、ルックブックでは全身をブランドの商品を合わせますが、お客さんは自分のクローゼットのものとうちの服を合わせます。だから、ショーは「この着方じゃないとダメ」とか「こうじゃなきゃかっこよくない」といったこととは別の表現がしたい。
うちの服をバイトして頑張って買ってくれている学生の子に、ルックの通りに着なくても、他に色んな着方ができるよと伝えるショーにしたいと考えています。
その人の大好きな服やアクセサリーと合わせてもらった方が、その人が培ってきたスタイルの中での、その人にしかできない着方になる。モデルもバラバラな個性の人を集めています。未成年のドラマの登場人物も、そんな感じだと思うんです。
今までお世話になってきた人に、自分たちなりに作ったショーを見てもらいたい。ショーをすることで、お店が半年間販売していく上でプラスになれば。ただ、ショーをするのはこれっきりです。今回は本当に色んな人に助けてもらって、皆で作りあげているから、僕のショーだなんて決して言えない。少しのギャランティーで手伝ってくれる人がいるから成り立つ。それが今のうちの規模での限界なんですよね。
このままの状態で何回も続けたら、我欲だけになってしまう。成長してちゃんと地に足がついた時に、どこでやるかは分からないですが、またショーをするのが楽しみです。(25日20時30分@渋谷ヒカリエホールB)
〈記者メモ〉
いつも丁寧で優しく、ひょうきんなところもあるナイスガイ。ミハラヤスヒロへの入社前には、断られても半年間三原さんにデザイン画を送り続けたという根性の人でもある。“わらしべ長者”なのは、人の話に耳を傾け、それに応えようとする真っ直ぐな人柄が、周りを引きつけるからだと思う。