【トップインタビュー】蝶理株式会社 代表取締役社長 先濵一夫氏(PR)

2023/07/05 00:00 更新


 2期連続で過去最高益を更新した蝶理が新中期経営計画「Chori Innovation Plan2025」を策定。同時に「サステナブル」「ウェルビーイング」「イノベーション」をテーマに、2030年に向けて「ありたい姿」を「VISION2030」として示した。「新しいステージへの道しるべ」となる新中計は、2019年から続くChori Innovation Planの総仕上げの役割を果たす。先濵一夫代表取締役社長に、蝶理のこれまでの歩みと現在、そしてこれから、を聞いた。

高まる商社の役割

―今年が設立75周年。新生蝶理となって20年になる。

 大株主、主力銀行などの支援により、苦難の時代を乗り越えて新生経営計画を策定したのが2003年。新生蝶理としてゼロからのスタートとなりました。今、蝶理があるのはお客様をはじめとしたステークホルダーの皆様のおかげと深く感謝します。

―どんな20年だった。

 外部環境に関係なく、今年より来年とひたすら数字を積み上げてきた20年でした。新生蝶理以前は、過大な借入で事業を回し、市況が悪化すると、すぐにバランスシートが崩れて資金繰りに苦しみました。新生蝶理ではROA(総資産利益率)重視の経営、資産効率を高める経営に切り替え、不採算事業を徹底的に切り捨て、利益が出る事業に絞りました。繊維事業もこの20年で、かなり構造改革を行い、健全な事業に集中したことが功を奏したと思います。

 2004年に東レの連結子会社となり、以降、東レから社長を迎えていましたが、2009年に前任の山﨑(修二社長)が就任し、蝶理のプロパー社員が社長を務める体制となりました。やはりこの頃から「自分たちの会社」という意識が生まれ、社員一丸となり、雰囲気が変わってきました。

蝶理の歩み
2003年の新生経営計画策定以降、堅実な経営を続けてきた。繊維、化学品、機械事業を軸にグローバルに事業を拡大している

―業績が好調だ。

 以前は商社不要論が言われていましたが、コロナ禍において商社の強みが発揮され、価値が見直されたと思います。新たなサプライチェーンを作りだし、柔軟に運用し、グローバルなネットワークを生かす我々商社の役割はこれから、さらに拡大していきます。コロナ禍で苦労はしましたが、社員は自信がついたと思います。

 特に繊維は前中計期間から状況が良くなかったところへコロナ、ロックダウン、円安と逆風が続く中、いち早く事業構造を改革したことで、当初掲げた利益目標をほぼ達成できました。

 この間に繊維の組織の壁をなくし、原料・生地、製品と分かれていた本部を1つにまとめたことが非常に良かったと思います。別本部で不採算事業があると自本部内で何とかしなければと無理をします。私が繰り返し言っていることは、繊維は世界で見ると成長産業であり、繊維全体で考えれば伸びる部分は必ずあるということ。無理をして踏ん張るのではなく、伸びるところに人と資源を集中すれば必ず成長できます。

 コロナ禍でアパレルのお客様の店頭が数カ月にわたり閉まる状況では、アパレル事業だけでは手の打ちようがありませんでしたが、事業構造を改革しながら、原料などが支え、繊維全体で持ちこたえました。結果、製品事業は過去最高益をあげることができました。

 原料も価格改定が追い付いてきており、自動車関連も生産が増え、上期は繊維に大いに期待しています。

 ―何がどう変わる。

 まず骨格である基幹システムを、20年間使ってきた独自システムから、SAPに変え、業務を標準化します。標準化により、無駄が減り、効率が高まると同時にデータの蓄積により仕事の透明性が高まります。マネジメント手法が変わり、組織も、人も変わり、新しいビジネスの創出が期待できます。

 この10年で事業の中身が変わり、基礎収益力が高まりました。成長は海外、特にアジアです。そのために体制、組織、人の配置などを変えてきました。これからさらに変えていきます。東京、大阪、上海を軸に、成長セクターである中国、東南アジア、インドで伸ばしていきます。世の中の変化と同時にビジネスチャンスが生まれる。変化を恐れず、チャンスに変える、変化への対応は、長く変化に耐えてきた私たち蝶理が得意とするところです。

 中国事業はこの10年で、売上、利益ともに倍になりました。さらに繊維も化学品も強化します。15年前、私が駐在していた頃の現地スタッフが成長し管理職として活躍していることを非常に嬉しく思います。中国の商材を中国で売るには、当然中国の人のほうが上手くいきます。

人を増やす

―DX推進で少数精鋭を維持するのか。

 いいえ、人は増やします。10年前は430人の社員がいましたが今は約400人強。事業を拡大し業務量は増えるので新中計期間に450人、500人と増やします。人的投資を加速し、蝶理のDNAを受け継ぐ人を増やすと同時に、キャリア採用を多く行うことでビジネスや業務の幅を拡大。新しい風を受け入れ、さらに強い蝶理へと変化します。

―〝新しいステージ〟の意味合いが変わった。

 経常利益50、60億円レベルから100億円台の目途が立ってきました。新中計では売上高3600億円、税引前当期純利益を160億円に引き上げ、2030年にはそれぞれ4000億円、200億円を目指します。2030年のありたい姿として、①のサステナブルでは、持続可能で豊かな社会を実現し社会と共生できる企業、②のウェルビーイングは、ステークホルダーのウェルビーイングを実現し、働き甲斐を感じて幸せになれる企業。③のイノベーションでは、継続的なイノベーションと成長分野への投資で新しいビジネスを構築し、収益を上げられる企業を目指します。消耗する安売りではなく、必要とされるものを良い価値で提供する主体性のある事業を、イノベーションを通じて生み出します。

廃棄ペットボトルを原料にしたリサイクルポリエステル「エコブルー」や高伸縮機能糸「テックスブリッド」など環境に配慮した商材の販売が拡大。25年度で500億円と現状の2.5倍に伸ばす計画。

 新中計では「積極的事業投資」も重点の一つであり、システムが変われば、M&Aの景色、視点も変わり、相乗効果の出し方も変わります。

 2030年に向けた成長には、しっかりした基盤作りが大切です。システムはあくまで骨格に過ぎず、使いこなす人が鍵です。人の成長が企業を成長させ、人が成長する企業には人が集まります。ひとり一人の可動域を広げるため、繊維と化学品間の人の異動や海外駐在、関係会社との人材の流動化を加速します。本社で優秀なグローバル人材や外国人留学生の採用が増え、非常に楽しみです。

 新中計では非財務目標も示しました。管理職に占める女性の割合を高めるなど女性が活躍できる会社にするために働き方も組織もどんどん変えていきます。

新中期経営計画の発表と同時に広告イメージも一新

―蝶理は変わったか。

 変わりましたし、これからも変わり続けます。新生経営計画以前は「蝶理、大丈夫か」と言われ続けてきましたが、やっと皆様に安心していただける会社になれたと思っています。営業パーソンも自信を持ってお客様と対等の立場で話ができるようになりました。世の中が変わっていく中、新たなステージに向け、目線を上げていきます。

【profile】先濵 一夫氏(さきはま・かずお)
広島大学工学部卒。1980年蝶理に入社。2009年蝶理中国商業副総経理、2010年執行役員化学品・機械・電子機器材副本部長、2013年取締役、2014年取締役兼執行役員化学品・機械・電子機器材本部長、2015年1月、代表取締役社長に就任。

https://www.chori.co.jp/

企画・制作=繊研新聞社業務局



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