22年春夏パリ・メンズコレクション 男性のモダンを探るデザイナーたち

2021/07/01 11:00 更新


 22年春夏パリ・メンズコレクションは、今の時代にふさわしいメンズスタイルをどう描くかが問われるシーズンとなった。テーラーリングの重厚なアイテムは減り、スポーツやアウトドアの要素が広がっている。都市生活とアウトドアの境界線への意識やテーラーリングとストリートウェアのミックス感覚が新しいメンズスタイルのカギとなっている。

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 リック・オウエンスは、波打ち際を歩く映像で新作を見せた。70年代を思わせるフレアパンツがキーアイテムとなる。そこにたっぷりのショルダーパッドを入れた重厚なスリーブレスコートやコンケープトショルダーのコートを組み合わせる。フィッシュネットのようなニットに、裂けたように素肌を見せる変形ジャージートップでグラマラスな雰囲気をプラスする。地面を引きずるデニムは、岡山の山足織物のシャトル織機で織ったセルビッチデニムのほか、イタリアの工場で生産されたオーガニックコットンを使っている。また、ブラジルの先住民族が生産した食品副産物であるピラルクの皮を使って、ジャケットやバッグも出している。

リック・オウエンス

 ポール・スミスは、パステルカラーとアースカラーを軸に、クリーンなカジュアルスタイルを見せた。ブランドのアイコンともいえるスーツスタイルは控えめで、わずかにれんがオレンジといった色使いで登場する。変わってキーアイテムとなりそうなのが、プルオーバーやブルゾン。フロントにはたくさんのパッチ&フラップポケットを飾り、機能性をアピールする。ボトムは膝上丈のショートパンツ。わたりが程よい太さで上品なイメージとなる。たくさんのヒマワリをプリントしたオープンカラーシャツ、マルチカラーのストライプセーター、マーブルのような曲線柄のセットアップも。

ポール・スミス

 Yプロジェクトは、Yの文字の白線に沿ってモデルが歩き続ける映像で見せた。得意のデコンストラクトなディテールは春夏も健在。ねじれたネックラインのケーブルセーター、フロントに布が揺れるデニムシャツ、肩襟が外れてアブストラクトに揺れるテーラードスーツ。アイテムを解体し再度作り込みながら新たなフォルムを探す。「フィラ」との協業によるトラックスーツやタンクトップも単純なスポーツアイテムではなく、複雑なカットで作り直す。コサージュのようにデニム地が揺れるGジャンやサイハイブーツのように太ももで切れ込みを入れたデニムパンツなど、パターンの遊びでベーシックアイテムに変化を生み出す。

Yプロジェクト

 ホワイトマウンテニアリングは、山を歩くモデルたちの映像で新作を見せた。より軽やかに、動きやすく、生活になじむプロダクトを目指し、都市生活とアウトドアの垣根をなくすための世界観を追求したというコレクション。アウトドアプロダクトを日常のライフスタイルに溶け込ませることを意識している。キルティングのアウターやマウンテンパーカといった機能的なアイテムの一方で、フルーツ柄のプリントシャツやハーフパンツ、ロンドン・ストライプのシャツなど、街で着られるようなアイテムもミックスしていく。ノーカラーのセットアップは、山で着るにはギリギリのエレガントなアイテム。

ホワイトマウンテニアリング

 フミト・ガンリュウは、パーティションで区切られたオフィスのような空間とモデルのキャットウォークを組み合わせたデジタル映像を配信した。巨大な顔のサイケデリックな映像と組み合わせる新作は、シンプルなイメージ。スポーティーなセットアップや袖を切り替えたシャツといったアイテムだ。そこに変化を付けるのは床にまで届きそうなロングスリーブのスウェットパーカ。ライダーズジャケットは、デニムタッチで「ディッキーズ」とのダブルネームだ。フルイドラインのフーデッドコートはオレンジやブルーのきれいな色で作った。

フミト・ガンリュウ

 ダンヒルは、モデルが動いてルックブックのように並ぶ映像で新作を見せた。英国らしさや男性らしさ、ユニフォームのアイデンティティーを意識したコレクション。シックなテーラードスタイルからワークウェアのユニフォーム、80年代のカジュアルまでを再解釈した。何通りにも着ることのできる多機能な服「コンペンディウム・コート」はジッパーで分離するとジャケットになり、ライニングを取り外せば、単体でも着ることができる。新しいシグネチャーとして、フロント部分がプリーツのアイテムやスプリットヘムのパンツも出した。

ダンヒル

 トム・ブラウンは、大平原でつつましく暮らす男性アスリートのトレーニングの日常と晴れの姿を映像で配信した。日々黙々と走り続けるランナーが暮らすのは大平原のオープンフレームの家。そこからランニングウェアに着替えて毎日走る。競技会へ出かける日はシアサッカーのスーツスタイル。ただしボトムはキルトのようなプリーツスカートだ。実際の競技のイメージだけはトム・ブラウン本人のアニメーションで描かれた。

トム・ブラウン

(小笠原拓郎)



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