ウィメンズとメンズを一緒に見せたりショーを取りやめたりするブランドが増え、世界的にコレクションが静かになっている。そうした中、ロンドンは以前にも増してタイトなスケジュール。5日間でショーの数は51と例年通りで、それに加え32のプレゼンテーションが公式スケジュールに組み込まれている。
その大半がデビュー5年未満の若手だ。完成度が高いのは当たり前。強い個性で新しい世界を打ち出し、いかにコアなファンの心をつかむかが、椅子取りゲームに勝ち残る決め手になっている。(ロンドン=若月美奈通信員)
「セイディ・ウィリアムス」はグリッターな輝きやグラフィカルな色切り替えといった特徴を継続しながらも、メルトンや太畝(うね)コーデュロイの伝統素材、パッチワークキルトのような手芸技術をモダンに取り入れた。バッキンガム宮殿の衛兵のユニフォームと同じヘインズワースのメルトンのセットアップは赤、青、白などの色切り替えでクリスタルのラインが走る。
マスタードイエローの太畝コーデュロイのワイドパンツやギャザースカートにも、畝の凹んだ部分のところどころにクリスタルテープがはめ込まれ、スペシャル感を出している。
セイディ・ウィリアムス
セイディ・ウィリアムス
フードパーカのフロントには、キルトのように中央を十字に割って折り返し、内側から熱転写プリントで柄をのせたシースルーのボンディング地がのぞく立体的な柄がのせられている。一目でこのブランドと分かる個性を保ちながらも、より着やすくなった印象。
「ロベルタ・アイナー」もクチュールやクラフトテクニックをふんだんに取り入れた独自のテキスタイルが売り。プリント、刺繍、スパンコールやビーズをふんだんに使った立体的な装飾は、セーターやドレスはもちろん、ボマージャケットやレザーのスカートなどにも施されている。やぼったくなりがちな過剰装飾を、40年代風のレトロなスタイルにすんなりと落とし込んだ。
ロベルタ・アイナー
ファッションエディターとしてスナップの常連でもあるロシア人、ナタリア・アラヴァーディアンがデザインする「アウェイク」(A.W.A.K.E.)が初めて公式スケジュール入りして新作を見せた。
古典的な日本文化に着想するナタリアが今回テーマにしたのはタコ。ずばりタコと男女が絡まる浮世絵がプリントされたきもの風のトップから、全体的にタックをつまんで流動性を出した袖のトップや内側に深いスリットを入れて足にまとわりつく長めのパンツといったタコの動きを表現したアイテムなど、大胆な発想のデザインが揃った。
テーラードジャケットなどマスキュリンなアイテムもあるが、ロングコートの裏地にもタコの浮世絵プリントが使われていたりする。
アウェイク
「フォスティンヌ・シュタインメッツ」は今シーズンも徹底的にデニムで攻める。会場入り口正面には「性別も年齢も出身も関係ない」から始まるメッセージ。あらゆる人のためのデニムウェアを掲げ、過去30年間に様々な国でどのようにデニムが着られて来たかを振り返り、アトリエ生産の独自の布地で意外性のあるデニムウェアの世界をアピールした。
色はインディゴとモノトーンだけ。絞り染めや脱色、リサイクルデニムの糸をネット状に重ねるといったこれまでも見せてきたテクニックも再び登場。刺繍したかのようにもっこりと飛び出した白い色の塊が散る布地も織りによって作られている。
一番意外性があるのは一見何でもないウォッシュドデニムのシャツやボトム。触るとものすごくソフトでざっくりとしたこの布地は、アトリエでの手織りによるものでコットンに加えてウールもある。
フォスティンヌ・シュタインメッツ
「フィービー・イングリッシュ」は今シーズンも様々な状況に置かれた女性たちを描くコンセプチュアルなコレクション。アシンメトリーなアイテムやレイヤードといったシグネチャーはそのままに、モノトーンやネイビーなど色を突き放した作風から一歩進んで、色を前面に出した。
鮮やかな赤いパンツスーツに黒地に重なるロイヤルブルーの透けるシャツとパンツ。オリーブグリーンのアシンメトリーなクロップトトップには、ストライプ状の柄入りのパンツに黒いチュールを重ねる。
フィービー・イングリッシュ
「シュリンプス」(ハナ・ウェイランド)はアーティストのルイーズ・ブルジョワ、タータン、手描きのヌードを出発点に、いつもながらのガーリーな世界にレディーライクなムードを重ねた。どことなくオーバーサイズなデザイン。ブランドの出発点であるフェイクファーは全体的には減っているが、キーアイテムのコートに加え、バックレスローファーの靴にも使われている。
シュリンプス
「ロバーツ・ウッド」(ケイティ・ロバーツウッド)はテーラードジャケットやストライプシャツ、プリーツスカートのワンピースといったスクールユニフォームのような定番アイテムをフリルやシャーリング、ノットで飾り、ボリュームがありながらも軽やかなスタイルを作る。
レイヤードによってフォルムを完成させるルックも多く、ギャザースカートのシャツドレスのようなスタイルは、シャツとパンツの上に、シャーリングからギャザーが広がるスカートのようなピースを肩からつるしている。
ロバーツ・ウッド
中国系デザイナーが着々と増えている。「ヘイゼンワン」もその一人。10シーズン目とキャリアはあるが今回が初めての公式スケジュール入り。テーラードベースのマスキュリンスタイルにユーティリティーのディテールを差し込んだ新作は、がっちりとしたスーツケースのようなバックルがついた先が床まで垂れるベルトでウエストをマークする。
肩をすっぽりと包むスクエアなキルティングショールもキーアイテムで、レザーのバイカージャケットの上にも重ねる。袖や胸には「壊れもの」「取り扱い注意」といったスローガンのワッペン。
ヘイゼンワン
(写真=セイディ・ウィリアムス、ロベルタ・アイナー、フィービー・イングリッシュはプレス提供。それ以外はcatwalking.com)