【インタビュー】豊島 豊島半七代表取締役社長

2018/07/25 06:01 更新



 豊島は、強みを持つ綿をはじめ、直近では「テンセルリュクス」「テンセルモダール」の販売権を取得するなど、原料から糸、テキスタイルまでの幅広い素材提案力を持つ。さらにはアパレルメーカーや小売業に対し、OEM・ODM(相手先ブランドによる設計・生産)で市場のニーズを先取りした製品を供給する。専門商社としての企画提案力に絶えず磨きをかけ、付加価値を提供することで取引先の期待に応える機能の拡充を図る。

業界や社会の変化を見据えて

――現在の業界をどう見ていますか。

 小売業の売り場が大きく変わってきていること、進行する少子高齢化、消費者の格差の拡大という3次元マトリックスで捉える必要があります。それに加えて衣料品は安くなければ売れない、という固定観念ができてしまっています。業界を挙げて取り組まないと脱却は難しいでしょう。安く作るだけでは店頭で差別化ができなくなるばかりです。ファッションへの興味が高まり、ワクワク感が盛り上がっていくような流れを作ることが大切です。

 ただし、今後も衣料品売り場が増え続けるのは間違いないので、低価格化の方向に進むのはまだまだ止まりそうにないでしょう。素材を工夫し、提案に力を入れても安くされてしまう状況から脱する必要があります。当面は生産や物流でさらに合理化するしかありません。

――製品OEM・ODMの対策は。

 専門商社として製品事業は、当社の主力ビジネスです。それには取引先からの期待に応え続ける必要があります。前期18年6月期では、製品の品質や納期など様々なトラブルが目立ちました。お客様が何をしようとしているのか、何を求めているのかをしっかり把握し、分析した上で対応する点に弱さがあったと受け止めています。もう一度原点に立ち返り、きめ細かく対応し製品事業をより強化していきます。

大手SPAも販売する多方向ストレッチの「ワンダーシェイプ」はバリエーションを拡大

新たな分野・市場の拡大へ

――自社ブランドの育成は。

 重要な課題の1つです。30代男女を対象にしたOBM(オリジナル・ブランド・マニュファクチャー)の「オブレクト」、大人の女性向けのインナー・リラクシングウェアの「コハン」などで、百貨店やセレクトショップなどの販路拡大を狙っています。オーガニックコットンの「オーガビッツ」はスタートから13年目を迎え、このほどロゴビジュアルを刷新し、新たなブランディングを目指しています。

 食材の残渣で染める「フードテキスタイル」は、国内で認知度のアップを図っています。欧州で可能性がある素材ですが、現状、技術的に量産が難しいのが悩ましいところです。中国市場でも価格を気にせず採用されているので、国内と合わせて海外でも販売を広げていきます。

――CVCやM&Aの状況は。

 IT(情報技術)とファッションに特化して出資するCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)で、当社が手薄な分野に素早く参入することが狙いです。

 IT支援システムでは「XZ」(クローゼット)、や「フェイシ―」、「バーチャサイズ」などに出資しました。また、東京大学の染谷隆夫教授らの研究成果である布状電子回路基板を製品化・事業化したゼノマの「イースキン」、日本環境設計の再生ポリエステル事業、インドネシア最大級のECモール「VIP・PLAZA」を運営するブイアイピー・プラザ・インターナショナルとの資本業務提携などを行ってきました。

 取引先に新たなサービスを紹介する「フェーズ1」、新たな商材を開発する「フェーズ2」、新たなマーケットを開拓する「フェーズ3」と進んできました。そして「フェーズ4」を仕込んで当社のビジネスに直結させていきます。

 M&A(企業の合併・買収)については本業に近いところで、当社が苦手な分野で進めます。生地・副資材をインターネットで販売する「テキスタイルネット」もその一つです。今後は参加企業をさらに広げていきます。

 M&Aでは競争相手もありますが、スピードを上げたい。CVCと合わせて新たな商材やマーケットを広げ、新規取引先の掘り起こしを目指します。

――雑貨部門が伸びている。

 前期から東京十八部を新設し、専任の担当者を配置しました。アパレルブランドのファッション雑貨やライフスタイル型ショップの生活雑貨などで、買い付けにとどまらず、OEM・ODMを強めています。

 前期の下期くらいからいろいろな商材が増え、新規の取引先も出来てきました。販売数量は伸びていますが、単価が低いためまだまだ利益面では不十分です。当面は100億円の売り上げを目標としています。

「雑貨部門」の新設で、新規取引先を獲得

生産背景や後方体制を拡充

――海外事業の現状は。

 中国は内販で堅調な分野がありますが、そこに偏りがちです。素材の守備範囲をもっと広げる必要があると考えています。

 ベトナムの現地法人(子会社)では自社のカットソー工場と協力工場で増産に持っていきます。現在の年産180万枚を250万枚に伸ばします。ミャンマーやバングラデシュなどでも納期や品質に十分注意しながら、生産拠点を拡充しています。

 素材の調達から製品までを海外でオペレーションし、低価格への要望にも確かな品質で応えていきます。

――東京本社を拡張。

 東京本社の増築は9月に完工します。現在の東京本社ビルと合わせて敷地面積は838平方メートル、延べ床面積は7177平方メートルとなり、約1.5倍の広さになります。既存の建物とつなげることで事務所の手狭感を解消し、取引先へのサービス向上に役立てていきます。

トピックス

設立100周年を迎えるにあたり

 今年は設立100周年にあたります。かねてから述べてきたことですが、「企業は有限」です。会社が1日でも長く存続することで社員が働き続けられるように、そしてその家族が楽しく幸せに暮らせるようにするのが社長としての責務だと考えてきました。100周年もその通過点に過ぎません。IT(情報技術)化がものすごい勢いで進む時代にあって、過去を振り返るのでなく、未来に向かって、有限である企業の存続・発展に向け、努力したいと考えています。


Profile
とよしま・はんしち
1955年4月1日生まれ、77年慶応義塾大学経済学部卒、同年東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行、85年豊島入社、90年取締役、94年常務取締役、99年専務取締役、02年から代表取締役社長

https://www.toyoshima.co.jp/

(繊研新聞本紙7月23日付け)





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