【対談】オンワードHD保元社長×繊研新聞社佐々木社長

2018/03/13 04:23 更新




 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった技術革新が急速に進み、SNSで一瞬の内に全世界規模であらゆる情報が発信、受信できる、ビッグデータがこれまでに想像もつかなかったような物事の連関を示す、消費者の価値観は大きく変化し、その購買行動は多様化を続ける…今、時代は大きな転換点を迎えています。ファッションビジネス業界もその大きな荒波の中でもまれながら、自らのその生きる道を探っています。

 こんな時代を繊研新聞社では「ファッションビジネス革命前夜」と捉え、繊研新聞社創業70周年の紙面キャンペーンテーマに据えました。

 日本のファッションビジネスの雄であり、トップランナーのオンワードホールディングスの保元道宣社長と繊研新聞社の佐々木幸二社長の対談を通じて、日本のファッションビジネス(FB)の今を見つめ、アパレル産業のリーディングカンパニーであるオンワードホールディングスの目指す未来、成長、発展の方策を語っていただきました。

顧客接点、モノづくり、物流が大きく変化

保元 最近、FBで大きく3つの環境変化を感じています。一つ目はお客様との接点、顧客タッチポイントです。かつてはここでしか素敵な服と出会えないといった限定されたタッチポイントがありました。それが郊外型ロードサイド店やショッピングモール、駅ビル、駅ナカなどの開発によりまずリアルの中で拡散されました。さらにここ10年でオンラインが急拡大しタッチポイントはグローバルかつ無限大に拡がりました。お客様にとっては利便性が高まりましたが、業界側から見ると、効率が悪くなり狙いを定めにくくなりました。今はこの大きな環境の変化に対応する新しい秩序を作り直す時期にきたのではないかと思っています。それがどのように落ち着くのか、リアルのお店がどうなるのか、これは1、2年で決着がつく問題ではなく、中期にわたって試行錯誤が続くでしょう。

 二つ目はモノづくりの変化です。よく言えば繊維製造業のグローバル化が進展し、一方で国内の産地からみれば空洞化が進みました。コストを考えれば、歴史の必然性かもしれませんが、これが今後どうなっていくのか、アジア諸国も近年急速な経済成長でコストが上昇し、さらに安いところを求めていくのか、あるいはモノづくりの一部は国産に回帰するのか。IoTやスマートインダストリーなどで、一人当たりの生産性が高い工場や機械設備が出来てくれば、立地を選ばず、メイド・イン・ジャパンでリーズナブルな製品が出来る可能性もあると思います。

 三つ目は、物流、ロジスティックスです。無限に拡散したタッチポイントと世界中に拡がる製造拠点をいかに繋げるかが大きな課題です。これまでは店頭など所定の場所に商品を届ければよかったのですが、現在は、お客様の指定された時間と場所に直送するというスタイルになってきました。商品配送というシンプルなことも、世界のあらゆる拠点をいかに繋ぐかが重要なキーポイントです。

 今やFBは、プレーヤーも多様化し国内外を問わず異業種が参入してくる戦国時代に突入しています。顧客接点、生産拠点、これらを繋ぐ物流それぞれにおいてテクノロジーの大きなうねりが押し寄せてきており、最適なものがまだ見えない状況ですが、オンワードグループは時代の変化に合わせ柔軟な対応が取れる経営基盤をさらに強固なものにしていきます。

オンワードホールディングス 保元社長

佐々木 今、FB業界は、グローバル化やテクノロジーの進化、生活者の意識の変化などで、従来型のビジネスモデルでは立ち行かなくなり、業界構造、企業構造ともに大きく変わらざる得なくなっています。その波はビッグウエーブで、立ち止まっていると押し流されてしまいます。こうした時代の大きな変化を繊研新聞は「ファッションビジネス革命前夜」と捉え、たじろがず果敢に挑戦している先進的な事例を紹介しながら、業界や業界で働く人々へ、今後の商売のヒントや問題提起を行っています。

原点に返り、変化をリード

保元 前夜ではなくもう革命の真っただ中なのかもしれません。そんな混沌とした時代だからこそ、自社のアイデンティティ、原点が大事だと思います。オンワードは91年もの長い歴史がある会社です。そこで働く人間集団のDNAは急に変えることはできませんし、長年培ってきた強みもあります。オンワードは、品質を大事にする、どちらかといえば重厚なモノづくりを得意としています。このことは、見方次第で強みでもあり弱みでもありますが、私はこれをオンワードグループの強みと捉え、原点に立ち返ろうと考えています。もちろんテクノロジーの進化や消費者の意識変化への対応を怠ってはいけません。いち早く環境変化に対応し、業界をリードしていく気概を社員全員と共有していこうと思っています。

 その具現化がオーダーメイドスーツブランド「カシヤマ ザ・スマートテーラー」です。ビジネススーツはまさに私たちの祖業であり原点です。だからこそ創業者の名前を冠し、乾坤一擲取り組んでいます。高い技術を持った多くの社員を有し、生産拠点やお取り引き先との強い絆もあります。この企画生産基盤をさらに強化、充実させるために一年後を目途に中国・大連にオーダーメイドのスマートファクトリーを構築します。


 顧客とのタッチポイントはオンラインと並行して、店頭や出張での採寸を重視しています。ヌード寸の採寸はデジタル機器の方が得意かもしれませんが、これとビジネススーツのサイズは必ずしも同じではありません。「サイズを測る」のではなく、着心地の良い「サイズを創る」ことは高いスキルを持った人間の手によってでしかできません。好みやTPOによって、お客様との会話からサイズを創っていく、手間はかかりますが、このようなアナログなタッチポイントも大事にしたいと思っています。

 直営店は、「セビロ&コー」を「カシヤマ ザ・スマートテーラー」にリニューアルオープンしました。オンラインによる来店予約が急増しており、ご来店されるお客様も従来の半径2、3キロ圏内から10キロ圏以上に拡がりました。オンワードグループとして、従来の高品質を保ちながらエントリープライスも3万円とリーズナブルな価格からご用意し、デリバリーは最短で1週間納期を実現。今後は、ニューヨークの「J・プレス」など海外拠点のお客様にも大連の工場からの直接配送を視野に入れています。

 メンズ、レディスというブランド事業本部や、企画、生産、販売、管理など部門の枠を越えて、社員のパワーを結集し全社一丸となって「カシヤマ ザ・スマートテーラー」の営業活動に取り組むことも、大企業病やセクショナリズムを克服するための重要な原点回帰です。オムニチャネル時代に対応した次世代の基幹事業であり、オンワードグループの未来を担う一大プロジェクトとして全力で取り組んでいく覚悟です。

佐々木 FB業界が大きな変革を迎えている時代に、私たちメディアも取材情報を一方的に発信するだけでは役割を果たせません。これまで以上に、業界ニーズ、読者ニーズを深く捉え、それに応える紙面、コンテンツ作りのために全力をあげていきます。「ファッションビジネスの発展に寄与することを通じて人々の豊かな暮らしの実現をめざす」というわが社の経営理念を改めて肝に銘じて、これを今日的に具現化していきます。

繊研新聞社 佐々木社長

テクノロジーを活用し、人にしかできない仕事に集中

保元 先日、全世界の優秀なファッションスタイリストを対象としたオンワードグループ表彰式を開催しました。その際にファッションに携わる仕事の素敵なところは、単に洋服を売るだけではなく、洋服を通じて落ち込んでいる人を励ましたり、ワクワクうれしい気持ちにさせたり、やる気を高めたりできることだと再認識しました。ファッションは、旅行や同窓会などお客様の生活の様々なシーンに彩りを提供したり、接客の会話で勇気づけたりすることでお客様から感謝の言葉をいただく、とてもやりがいのある楽しい仕事です。その最前線にいるコミュニケーターがファッションスタイリストであり、顧客タッチポイントである接客がより輝く環境作りに努めないといけません。これからはAIが取って代わる仕事も数多くあるかもしれませんが、AIに顔認証はできても人を励ますことはできません。AIができる仕事はAIに任せ、人は人にしか出来ない仕事、より付加価値の高い業務に集中することが大切です。ファッションは人間が深く関与するヒューマン・リソース中心のビジネスであり、そこに深み、存在意義があるのではないでしょうか。

 FBはモノづくり、販売においても女性が活躍する機会が多い環境にあります。一方でアパレル業界はワークライフバランスの考え方がまだ充分に浸透していないのが現状であり、働き手にとってより魅力的な業界にしていくことが喫緊の課題です。クリエーションを考えるのにデスクは必要なく、テクノロジーの活用などで、働く場所を自由に選び、職種によっては、働き方を大きく変えるチャンスでもあります。FBは若い感性を必要としています。ぜひ、ファッションに興味のある多くの方に、オンワードグループの扉をたたいていただき、一緒に人々の心を動かし感動を与える仕事に果敢にチャレンジできればうれしいです。

佐々木 ファッションは本来、人々に喜びや心の豊かさを提供するもので、FBはたいへん夢のある素晴らしい産業です。それはどんなに時代が変化しても変わりません。これからは生き方やライフスタイルをどう表現するか、その一つのアイテムとして洋服があるということで、それに応える提案ができれば、FBの可能性は無限に広がっていると思います。私たちは業界の応援団として、さらに情報に磨きをかけていきます。


(繊研新聞本紙3月8日付け)



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