流通の激変、消費者の購買行動の変化、デフレの継続と、靴下を巡る経営環境は依然として厳しい。岡本の連結売上高は約400億円(18年3月期)、2、3位企業の倍近い規模だが、岡本哲治社長の危機感は強い。「良い商品を作っても、最終消費者に企業、ブランド名が伝わっていないのが現状。最新の機器や情報ツールの活用も遅れている。セリング志向だった過去の成功体験をゼロベースに戻し、生活者起点に立ったマーケティング志向へ転換することが急務」と言う。時代の大きな曲がり角を迎えるなか、変化にいかに対応し、あるべき岡本の姿をどう作り上げていくか。改革は緒に就いたばかりだ。
モノ発想ではなくコト発想で
日本の靴下は安すぎると常々思っています。海外製品と比べても機能性に優れたものが多く、抗菌防臭、消臭、蒸れ防止、保湿、保温、クーリング、UV(紫外線)カット、サポートなど枚挙にいとまがありません。
にもかかわらず、価格の議論が先行するのはなぜか。恐らく、『この商品は、この価格に見合うこれだけの価値がある』ということを真剣に伝える努力をなおざりにしてきたからでしょう。業界全体、そして自分達の責任だと思っています。
結果として、日本には靴下のブランドが育っていません。商品のブランド化ができていないことは大きな課題であり、生活者視点で開発した差別化商品により量勝負から質の勝負へと変化していかなければなりません。自社の出荷状況の理解だけではなく、他社を含めた店頭の販売状況を理解して商品を開発・供給することが、無駄な在庫をなくすことにつながります。そのためにも、ソースマーキング導入を働きかけていきたいと思います。世界の競争下で、業界全体としてグローバルに通用するマーケティング力を持つ必要があると考えています。
数多く作った商品の中から生活者に選んでもらうのではなく、生活者理解を深めることにより、ニーズを満たす商品を開発し、提供しなければなりません。当社の経営理念にある「社会に貢献する」ということの具体的イメージとして、「足もとから、ひとりひとりのしあわせをともにつくる」というミッションを設定し、社員が目指すものを明確にしました。「モノ発想ではなく、コト発想」という思いを込めて、経営層と社員が一緒に作り上げました。
生活者の不満を解決
当社もこの間、試行錯誤しながら様々な改革に着手してきました。生活者が買いやすい選びやすい店頭のVMD提案、生活者の生の声を聞くために社員が量販店の店頭に自ら立つ「推奨販売」などは、一定の成果を挙げてきたと自負しています。
また、文字通りサプリメントのような全く新しいパッケージで販売する「靴下サプリ」も新しい試みです。外観、わかりやすいネーミングがバラエティストアやECという新しい販路にも、うまくマッチしたのだと思います。
今春に発売した「脱げないココピタ」も大きな成功例になりつつあります。「フットカバーは脱げて当たり前」という生活者のあきらめ意識を変える商品の誕生により、フットカバー離れしていた生活者を呼び戻すきっかけを作り出しました。この商品をブランド化するためには、ナショナルブランドの3条件が必要です。一つ目は「差別化された品質を持っている」こと。生活者のシーンに目を向け、脱げる根本要因をつかんで解決したことです。「薄くて・浅くて・脱げない」フットカバーの理想を実現するために、足の動きと生地の伸縮を研究し、かかとをしっかりホールドする「コの字型ストッパー」を独自に開発しました。二つ目は「誰でも知っている」状態を作ること。試験的な販売促進広告とメディア向け新商品の発表会を実施しました。社名や商品名を幅広く生活者に知ってもらう機会となりました。三つ目は「どこでも売っている」状態を実現すること。今後さらにターゲットに合致する販路開拓と強化を行ってまいります。
機能性レッグウェア商品
生活者ニーズに応える商品を開発し、ターゲットの認知獲得と購買を促し、購入者の不満点を商品改良につなげるというサイクルのために、ロングセラー商品をつくりたいと考えています。 ビジネスマンの悩みに応えた“ムレない、におわない”靴下「スーパーソックス」、“履いて楽々おしゃれを楽しむ”をコンセプトに活動的な生活を送る現代のハイミセス・シニア層に向けた「はくらく」、医療現場のニーズをリサーチし日本人の足に合わせた弾性ストッキング「オカモトメディカル」、毎日履く靴下で健康と美を考える「靴下サプリ」シリーズなど、その種類は増えています。中でも、「靴下サプリ」の「まるでこたつソックス」は独自の編み方により、足首のつぼである三陰交をあたためる冷え対策の靴下で、東レ、東洋紡、岡本の3社共同開発による特殊保温・発熱生地を使い、さらに温かさを追求しました。まるでこたつに入っているような温かさとそれがわかりやすく伝わるネーミングによってヒット商品となっていますが、いずれの商品もまだまだ発展途上にあると考えています。
一方、これだけグローバル化が進むなか、国内だけでは事業は成り立ちません。現在、奈良、中国、タイに生産拠点を持っていますが、特に人件費の上がる海外拠点は再整備が必要な時期に来ています。アメリカの現地法人は黒字転換し、事業が軌道に乗ってきました。今後は米国と当社の生産ネットワークとの連携も重要になってきます。
海外事業も基本方針は国内と同じです。常に生活者起点に立ち、グローバルなマーケティング力を持つ企業になる、これが岡本グループの理想像です。
岡本株式会社
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