「SEN」(セン)主宰の服飾作家の田川朋子さんは、四角い布を基本に、型紙を先に作らず、ボディーに布を当てながら形を作る独自の手法で一点物を仕上げる。流行を追うのではなく、服を通して物語を表現し、時を超えて残る作品を目指す。大阪市の扇町ミュージアムキューブで10月25日、ファッションショーとパフォーマンスを融合した「冥府」を開く。
(津田茂樹)
制約から生む造形
田川さんはもともと漫画家や絵描きになりたかった。幼い頃から本を読み、場面や人物を頭の中で映像のように描くことが好きだった。その想像力が現在の制作につながった。
作品はまずテーマや物語を考え、登場人物を作り、モデルや衣装、生地などを決めていく。「最初に服だけを決めるというより、物語を形にするために服を作る感覚」だ。制作では布を選ぶときから、触りながら、どんな形ができそうかを思い描き、四角い布をボディーに広げ、留めながら形を整え、最後は自ら縫い上げる。「布がどんな形になりたがっているのかを探るような作り方」だ。
四角い布を基本にするのは、きもののように布を無駄なく使い、ほどけば別の形に生まれ変わらせられることに魅力を感じるからだ。制約の中で、どれだけの造形ができるかに挑戦している。
今回の「冥府」では、十王による死後の裁きや、初七日、四十九日などにまつわる伝承を題材に、18点前後を発表する。モデルやパフォーマーら約6人が出演し、田川さん自身も舞台上で布から服を作り上げる。パントマイムや演技、津軽三味線の即興演奏を組み合わせ、約40分の舞台に仕立てる。

時を超え残したい
冥府を生み出すきっかけの一つに、「戦争を起こす人への怒り」がある。だが反戦だけをテーマにした作品ではない。「今の社会にある息苦しさや、発言することへの不安、報道への違和感など、世の中全体に感じていることも含まれています」。怒りだけでなく、慈悲の要素も表現する。
かつてセレクトショップへの卸などを手掛けたが、数を作って販売することに疲れた。「会社に勤めてデザイナーをするのと変わらないのではないかと思い、自分の表現を大切にしたいと考えるようになった」。現在は服を売るだけでなく、舞台や映像など別の表現の中に服を置くことを目指す。今回の発表も「こういうものを作れます」と伝えるプレゼンテーションだ。
「服はいつかなくなってしまうかもしれませんが、映像なら、人が着て動いている姿と一緒に残ります。私の名前が残らなくても、作品が時を経て誰かに見つけてもらえたらうれしい」。映画衣装にも挑戦したいという。
「何年も大切にしてもらえる服を作りたい」。流行のために消費されるのではなく、着る人の人生や記憶に残る服を作る。物語を描くことから始まった田川さんの服作りは、舞台や映像へと表現の場を広げている。
