10月、岡山・表町商店街に「パテックフィリップブティック岡山byトミヤ」がオープンしました。パテックフィリップは、スイス・ジュネーブで180年超の歴史を持ち、世界の時計愛好家が最高峰の一つに挙げるブランド。中国・四国初となるブティックは、国内では銀座、表参道、神戸、大阪に続く5店目で、32年に表町で創業したトミヤコーポレーションが運営を担います。
【関連記事】地方にアバンギャルドを 10年目の「反転劇」《プラグマガジン編集長のローカル私論》
一流ブランドが地方から退くなか、24年1月の当連載「地方のラグジュアリーを守る」では、創業地・表町を支えるトミヤの「守り」と、県外出店という「攻め」について書きました。今回の主題は、岡山と世界を商いで「結ぶ」力です。
売り場が語る約40年
23年末時点でトミヤが運営していた全19店のうち、11店は下之町商店街の約200メートル区間にありました。時計、宝飾、ライフスタイルと分野の異なる店舗が通りに面して並び、その一角の景観と人の流れを1社で支えています。そこにあったのは、「時計と宝飾だけは自分たちで守る」という古市聖一郎社長の確固たる意志でした。
パテックフィリップの正規輸入販売が日本で始まったのは57年。トミヤは03年の日本法人発足に先立って取り扱いを始め、その取引は約40年に及びます。
当初は独立した売り場を設ける規模ではなく、階段の踊り場での小さな専用コーナーからの出発でした。すでに世界的な名声を得ていたものの、日本での存在感は現在ほど大きくなかった時代。その頃からトミヤはこのブランドを「宝」と呼び、売り場の広さや当時の知名度とは別の尺度で、価値を見いだしていました。
限られた売り場から、通りに面した専用ブティックへ。今回の出店は、有名ブランドの誘致に成功したという類いの事例ではありません。それは、約40年にわたる両社の歩みを抜きに語れないからです。トミヤが岡山で積み上げた販売実績と、パテックフィリップ側の創業地を重んじる方針への理解。その先に結実したのが、このブティックです。
遠くと結ぶ場にも
共同催事や情報発信など、地元で力を合わせることは商店街を支える土台です。ただ、それだけでは、発想も人の流れも内側だけを巡る閉じた循環に陥る危うさもあるでしょう。
表町は、高級ブランドだけがひしめく商業施設でも、昔ながらの店だけが軒を連ねるいわゆる商店街でもありません。両者が共存する商いの振れ幅が、表町ならではの個性を生んでいます。背景には世界との関係を長年育み、その蓄積を創業地での店作りに生かしてきたトミヤの存在があります。
今回のブティック開業は、地方の商店街に店を構えながら、全国から人を呼び込む同社の求心力をさらに高める契機になるはずです。創業地を守り、県外へ攻め、世界と地域を結ぶ。三つに通底するのは、地域への責任と事業の成長を二者択一にしない経営。全国各地で活性化が課題となる商店街を、地元の店が支え合う場所だけでなく、地域に根を張る企業が世界へ商いを伸ばす舞台として捉える。表町では、その発想が現実の風景になっています。

