6月に入り、テキスタイル関連企業が、21年春夏のファッションに向けて再び動き出した。新型コロナウイルスの感染が日本で急拡大した3~5月は、21年春夏向けのテキスタイル提案が最盛期を迎えるはずだった。予定されていた展示会は中止に追い込まれ、出張抑制や在宅勤務の広がりで、個別に営業をかけることも難しかった。これを機に、オンライン会議システムやSNSなどで接点を増やしたり、QRの新たな仕組みを取り入れたりして、アパレルの需要を喚起している。
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店頭の営業自粛や休業で、テキスタイル関連企業を巡る環境も厳しさを増している。本来であれば、アパレルの20~21年秋冬展が一巡し、受注も活発になる時期だが、各社の商談は、計画数量の縮小や出荷の一時停止要請、新規企画の取り止めなど見直しが相次いでいる。5月以降の売り上げ見通しは、「前年同期比50%減でもましな方」「通期で2ケタ減収を織り込む辛抱の1年」「今期の赤字を覚悟」とする見方もあり、先行きの不透明感が強い。
続く21年春夏の商談は、多くの企業が発信の機会を失った。アパレルにとっても「新たな素材との出合いが新たなクリエイションに不可欠」(デザイナー)。オンライン会議システムを使った商談やSNSでの発信、動画配信、自社サイトの充実など、顧客とのコミュニケーションをネットで補完する動きが広がった。テキスタイルビジネスは顧客と対面し、生地を前にコミュニケーションする文化が根付いてきたが、オンライン会議の急速な普及も後押しし、「展示会や営業活動のあり方が変わるのでは」と見る向きもある。
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売り方にも変化が生じ始めている。コロナ禍で様々なリスクが露呈し、これまで以上に実売期に引き付けた発注が増えるという見込みからだ。必要な素材を常時在庫する機能や産地とのネットワークを生かした小ロット短納期対応が、商談で強みを発揮しそうだ。新たなサービスとして、ODM(相手先ブランドによる設計・生産)を訴求する企業も出てきた。ストック素材に加え、デザインやパターン、縫製背景も用意し、その場で見積もりや納期を提示する。店頭納入を目前に控えた秋冬物にも対応し、好評だという。
21年春夏向けの企画は、サステイナビリティー(持続可能性)が継続して重視されている。リサイクル繊維やオーガニック原料、レーヨンやキュプラ、「テンセル」など植物由来の化学繊維、水やエネルギー消費の少ない染色加工などだ。この機運から地球環境への意識が高まり、ナチュラルな素材や「自然の持つ力強さやフォルム、デザイン」を模した意匠も増えている。
新型コロナで急浮上したのが、「安心・安全」。抗菌、抗ウイルスの機能を持った糸や加工を使った素材を拡充する動きが盛んだ。リモートワークが増え、楽に着られてきちんと見える服の需要が盛り上がるという見方から、ハイゲージジャージーのシャツ地や、ストレッチやウォッシャブルなどの機能を盛り込んだ軽量素材も目立つ。
ワンマイルウェアやリラックスウェアを意識したベーシックな生地が増える一方で、華やかな意匠も戻ってきそうだ。「文化やアートが生活に欠かせないとする意識」が広がっており、「来春夏市場はプリントなどの色柄が明るさを取り戻す」と見られる。「ジャカードなど表面感のある光沢素材」や「カラフルな先染め」が店頭に明るさをもたらしそうだ。