日本の伝統文化を現代へと読み替えてきた15年の創作を、「手しごと」を軸にひも解き、その原点と未来を見つめる

(C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
舘鼻則孝 創作活動15周年記念「リシンク -舘鼻則孝と手しごと- 展」
2026年9月10日(木)- 10月6日(火)
女子美アートミュージアム|女子美術大学 相模原キャンパス
女子美アートミュージアムでは現在、アーティスト・舘鼻則孝の創作活動15周年記念展「リシンク-舘鼻則孝と手しごと-」を開催しています。
舘鼻は2010年の活動開始以来、「Rethink」という考え方を創作の根幹に据え、日本の伝統文化や工芸に新たな視点を与える作品を発表してきました。
花魁の高下駄から着想を得た《Heel-less Shoes》をはじめ、絵画、彫刻、版画など、その表現は多岐にわたります。一方、それらの作品の背景には一貫して、素材に触れ、技法を研究し、道具を使いながら自らの手でかたちを生み出す「手しごと」があります。
2019年より女子美術大学工芸専攻の特別招聘教授を務める舘鼻にとって、同大学は自身の創作活動と教育が交差する場所でもあります。創作活動15周年という節目に開催される本展では、これまでの活動を単に振り返るのではなく、完成した作品の背景にある素材、技法、道具、制作工程、そして各分野の職人や表現者との協働に光を当て、「手しごと」という視点から舘鼻の創作の原点と、その先にある可能性を見つめます。
会場は7つのチャプターによって構成され、舘鼻の創作を「伝統」「文化」「手しごと」「技術」「協働」「歴史」、そして「色」という視点から読み解きます。

Chapter 1|伝統を履き替える / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Chapter 1|伝統を履き替える / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Heel-less Shoes|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
Chapter 1|伝統を履き替える
舘鼻則孝の創作活動の原点となった《Heel-less Shoes》。
東京藝術大学在学中、花魁について研究していた舘鼻は、彼女たちが履いていた高下駄から着想し、卒業制作として最初の《Heel-less Shoes》を制作しました。
江戸時代の花魁にとって、履物は単なる実用品ではありませんでした。高く積み上げられた下駄は、その姿を特徴づけると同時に、身分や社会的な位置を可視化する記号でもありました。
舘鼻はそうした文化的背景を読み解きながら、歴史的な意匠をそのまま再現するのではなく、現代の履物へと置き換えます。
本章では、《Heel-less Shoes “Atom”》をはじめとする作品とともに、舘鼻が学生時代から収集してきた1950年代のアメリカ製の靴木型や、制作に用いる道具、素材なども展示。鮫皮や染色した牛革といった素材から、木型を用いた成形、革を漉き、積層し、かたちをつくり上げていく工程まで、完成した作品の内側に存在する「手しごと」を紹介します。
また、東京藝術大学の卒業制作として発表された《Heel-less Shoes》と同時期の表現を起点とする作品を通して、舘鼻の創作における伝統文化との向き合い方をたどります。

Woodcuts, 2019|鈴木コレクション / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Arrows, 2019|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
Chapter 2|文化を読み替える
舘鼻の「Rethink」は、特定の工芸技法を継承することだけを意味するものではありません。
文化の背景にある物語や図像、信仰、習慣を読み解き、それらを現代の視点から再構成することもまた、舘鼻の創作における重要な方法です。
《Woodcuts》は、香木の組み合わせを図案化した日本の伝統的な「源氏香の図」に着想した木版作品です。本展では52種の図案を展開し、かつて香りを判別するための記号であった図像を、現代の視覚表現として読み替えます。
225本の矢によって構成される《Arrows》では、日本文化において魔除けや神事と結びついてきた「矢」という存在に着目。矢が反射する鏡面とともに、反復される形態によって空間そのものを作品へと変化させます。
《Descending Painting》では、仏教絵画における来迎図や雷といったモチーフを起点に、伝統的な図像と現代の絵画表現との関係を探ります。
異なる時代に生まれた文化をそのまま保存するのではなく、現代からもう一度見つめ直すことで、新しい意味を与える。本章では、舘鼻の作品に通底する文化の「読み替え」を紹介します。

Heel-less Shoes "Atom", 2023|鈴木コレクション / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

雷鼓|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

東海道五十七次|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
Chapter 3|手しごとを編み直す
舘鼻の作品は、ひとりのアーティストの手だけによって生まれるものばかりではありません。
日本各地で受け継がれてきた技術を持つ職人との協働もまた、舘鼻の創作における重要な要素です。
本章では、江戸組紐の老舗・龍工房との協働による《Heel-less Shoes》をはじめ、伝統的な技法を現代の作品へと展開してきたプロジェクトを紹介します。
また、絵師、彫師、摺師という分業によって制作される浮世絵の仕組みを現代に再構築した、令和版浮世絵《東海道五十七次》を展示。アーティストが原画を描き、それを彫師が版木へと彫り、摺師が一枚ずつ摺り上げるという工程を通して、ひとつの作品の中に複数の手が重なっていきます。
さらに、宮本卯之助商店との協働による《雷鼓》など、長い歴史を持つ技術と舘鼻の作品世界が交差する試みも紹介します。
伝統を固定された形式として捉えるのではなく、それを担う人々とともに新しいかたちへ編み直していくこと。そこには、技術だけではなく、人から人へと受け渡されていく「手」の存在があります。

Heel-less FLOW Shoes - UNRAI (Cloud & Thunder) |作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K.

Heel-less FLOW Shoes - UNRAI (Cloud & Thunder) |作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K.
舘鼻則孝と中村弘峰、交錯する手しごと
また、本展のために制作された新作《Heel-less FLOW Shoes - UNRAI (Cloud & Thunder)》では、舘鼻と人形師・中村弘峰による新たな協働を展開しています。
舘鼻の《Heel-less Shoes》と、中村の作品に登場する架空のスポーツブランド「FLOW」が交差し、舘鼻の作品に繰り返し登場する「雷」と「雲」を組み合わせた「雲雷」の図案が施されました。
「FLOW(流れ)」と「不老」。日本語では同じ響きを持ちながら、移ろうことと変わらぬことという相反する意味を持つ二つの言葉を重ねることで、文化は変化することによって受け継がれていくという考えを表現しています。

Chapter 4|未来をかたちづくる / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Void Sculpture, 2018 |作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Frozen Boots, 2014|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
Chapter 4|未来をかたちづくる
「手しごと」と「テクノロジー」は、相反するものなのでしょうか。
舘鼻の制作では、伝統的な技法とともに、3Dスキャン、デジタルモデリング、3Dプリンティングなど、現代の技術も積極的に取り入れられています。
学生時代から収集してきた靴木型を3Dデータ化し、新たな木型へと展開する試みもそのひとつです。
本章では、《Frozen Boots》から展開した彫刻作品や《Void Sculpture》、デジタル技術を介して身体や履物の構造を再考する作品などを紹介します。
重要なのは、手作業を機械へ置き換えることではありません。
新しい技術をひとつの「道具」として捉え、人間の手や感覚とどのように共存させることができるのか。
工芸とテクノロジーの境界を往来しながら、これからの「つくる」という行為の可能性を探ります。

Chapter 5|ともにつくる / Lady Gaga / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Daphne Guinness / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Zutti Mattia / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
Chapter 5|ともにつくる
作品は、アーティストのスタジオの中だけで完結するものではありません。
舘鼻はこれまで、Lady Gaga、Daphne Guinness、Zutti Mattiaをはじめ、さまざまな表現者との対話を通して作品を生み出してきました。
履く人の身体、衣装、舞台、撮影、パフォーマンス。
《Heel-less Shoes》をはじめとする作品は、誰かが身につけることによって新たな文脈を獲得し、スタジオを離れた場所で別の表現へと変化していきます。
本章では、こうした表現者との協働を通して、舘鼻の作品がどのように新たな意味や姿を獲得してきたのかを紹介します。

Chapter 6|歴史と対話する / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Heel-less Shoes, 2026|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Heel-less Shoes, 2026|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
Chapter 6|歴史と対話する
舘鼻の創作において、歴史は過去に完結したものではありません。
古い図像や工芸品、写真、資料などを現在の視点から見つめ直すことで、そこから新たな作品の入口を見つけ出してきました。
歴史をそのまま再現するのではなく、過去に残されたものと現在の自分との間に対話を生み出すこと。
本章では、舘鼻が創作のために収集してきた資料や、そこから生まれた作品を通して、リサーチと制作の関係を紹介します。
アーティストが何を見るのか。そして、そこから何を読み取るのか。
作品が生まれる以前に存在する「見る」という行為もまた、舘鼻にとって重要な創作の一部です。

Final Chapter|色から始まる / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Descending Painting (Folding Screen), 2023|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

NT Tone Card|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
Final Chapter|色から始まる
展覧会の最後を構成するのは、「色」です。
舘鼻のスタジオには、作品制作のために独自に調色された3,000色以上の色見本「NORITAKA TATEHANA TONES」が蓄積されています。
ひとつの色をつくるために複数の色を混ぜ、その配合を記録し、必要なときに再び同じ色をつくる。長年にわたる制作の中で生まれた色彩のアーカイブであり、それぞれの色には固有のレシピが存在します。
本展では、この膨大なトーンカードの一部を初公開。さらに、雷雲の間から差し込む光を描いた《Descending Painting (Folding Screen)》などを通して、舘鼻の創作における色と絵画の関係を紹介します。

Abstract Painting (Surplus), 2026|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

Abstract Painting (Surplus), 2026|作家蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION

ドローダウン|artience株式会社 所蔵 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
artienceと考える、「色をつくる」という手しごと
本展に協賛するartience株式会社との取り組みでは、「色」を接点に、アーティストの制作と産業の現場に存在する手しごとを見つめ直しました。
印刷インキの製造において、色は数値や配合だけで完成するものではありません。
調色を担う職人たちは、インキの状態を確認しながら微細な差異を見極め、色を調整していきます。本展では、artienceのインキ製造所で実際に調色を担う職人が使用するヘラや、インキを紙に引いて発色や品質を確認する「ドローダウン」のための道具や資料も紹介しています。
一見すると同じステンレス製のヘラも、使い手によって加工され、それぞれが扱いやすい形へと変化しています。
大量生産を支える産業の現場にも、人の目や感覚、経験、そして手の動きがあります。
本展では、そのようなartienceの「色をつくる現場」と舘鼻の絵画制作を接続する試みとして、協働による新作《Abstract Painting (Surplus)》を制作しました。
作品に用いられているのは、印刷インキの製造工程で生じた余剰インキです。
異なる用途のためにつくられた色彩を混ぜ合わせ、粘度や流動性、積層によって生まれる現象を絵画へと展開。作家が制御する行為と、素材そのものが生み出す偶然性の間に作品を成立させています。
本来は異なる印刷物のためにつくられ、役割を終えるはずだった色が、ひとつの画面の上で再び出会う。
そこに現れる色彩の断面は、同時に、社会や市場によって生み出されてきた「色」の集積でもあります。
伝統工芸の職人から、現代の製造現場で色をつくる職人まで。
本展が見つめる「手しごと」は、過去の技術だけを意味するものではありません。
15年間の創作を振り返る展覧会の最後に「色」を置くことは、過去を総括するためだけではなく、そこから次の創作を始めるためでもあります。
色から作品が生まれ、作品からまた新しい問いが生まれる。
「色から始まる」という最終章は、本展の終着点であると同時に、舘鼻則孝の次の創作へとつながる起点でもあります。

リシンク -舘鼻則孝と手しごと- 展 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K.
開催概要
舘鼻則孝創作活動15周年記念
「リシンク-舘鼻則孝と手しごと- 展」
会期:2026年9月10日(木)から10月6日(火)まで
会場:女子美アートミュージアム(女子美術大学 相模原キャンパス10号館1階)
所在地:〒252-8538 神奈川県相模原市南区麻溝台1900
開館時間:10:00から17:00まで(入館は16:30まで)
休館日:日曜・祝日
入館料:無料
主催:女子美術大学 デザイン・工芸学科 工芸研究室 / NORITAKA TATEHANA STUDIO
共催:女子美術大学染織文化資源研究所
協力:女子美術大学美術館 / 読売新聞社
協賛:artience株式会社 / Zutti Mattia
後援:相模原市 / 相模原市教育委員会
展覧会特設サイト:rethink.noritakatatehana.com
同時開催
舘鼻則孝 展「Venus」
女子美術大学の象徴的な存在である「Venus」を起点に、古代から現代まで時代とともに変化してきた美のかたちを見つめ直す展覧会を、Joshibi SPACE 1900にて同時開催しています。
会期:2026年9月10日(木)-9月30日(水)
会場:Joshibi SPACE 1900(女子美術大学 相模原キャンパス1号館1階)
展覧会特設サイト:venus.noritakatatehana.com
アーティストプロフィール

舘鼻則孝 / (C)︎NORITAKA TATEHANA K.K. Photo by GION
舘鼻則孝 (たてはな のりたか)
1985年、東京都生まれ。2010年、東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻卒業。創作活動の概念として「Rethink」を掲げ、日本古来の文化や美学を独自の視点から捉え直し、現代の価値観を問い直す作品を制作している。花魁の高下駄から着想を得て制作された代表作《Heel-less Shoes》は、米国歌手のレディー・ガガに愛用されたことでも知られる。制作は彫刻・絵画・インスタレーションから舞台演出にまで及び、2016年にはパリのカルティエ現代美術財団で文楽公演を監督・演出した。岡本太郎記念館(2016)、山口県立萩美術館・浦上記念館(2023)などで個展を開催。作品は国立工芸館、メトロポリタン美術館、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館などに収蔵されている。
2019年より女子美術大学デザイン・工芸学科工芸専攻で特別招聘教授を務めている。
NORITAKA TATEHANA オフィシャルサイト・SNS
オフィシャルサイト:www.noritakatatehana.com
Instagram:@noritaka_tatehana / @tatehanastudio
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