基底膜の凹凸構造を再現した三次元皮膚モデルの構築に成功
富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、ヒト皮膚の内部の基底膜に存在する凹凸構造を再現した三次元皮膚モデルを新たに開発しました。また、本モデルを用いた検証により、皮膚内部の形態が肌表面のキメ様構造の形成に影響を及ぼすことを示唆する研究成果を得ました。
当社は、本成果を2026年6月25日より有楽町朝日ホール(東京都千代田区)で開催される「第51回日本香粧品学会学術大会」にて発表いたします。
開発背景
当社はこれまで、皮膚内部の構造を非侵襲に観察できるLC-OCT*1と独自のAIシステムを用いた画像解析技術を組み合わせた皮膚解析により、皮膚の内部構造と肌表面のキメ形状に共通した特徴が存在することを明らかにしてきました*2。また、従来、基底膜の凹凸構造が加齢に伴って平坦化することや、肌表面のキメも加齢に伴って失われることが知られていましたが、基底膜の凹凸が肌表面のキメ形成にどのように関与するかについては、解明されていませんでした。そこで当社は、実際のヒト皮膚の基底膜の凹凸構造を模した基盤を人工的に作製し、セルカルチャーインサート*3(以下、インサート)上に三次元表皮を構築することで、新たな皮膚モデルの開発に取り組みました。今回の研究では、当社の化粧品分野における皮膚解析の知見に加え、これまで写真技術で培ってきた材料技術や成形技術を活用することで、よりヒト皮膚に近い皮膚モデルを開発しました。
*1 Line-field Confocal Optical Coherence Tomography(ラインフィールド共焦点光干渉断層撮影)の略称で、皮膚の内部構造を高解像度画像で非侵襲的に観察できる撮像機器のこと。
*2 富士フイルムニュースリリース「皮膚内部構造と肌理(キメ)の形状に共通点があることを発見」(2025年5月22日発表)
*3 多孔性膜を有する培養用挿入器具のこと。

【皮膚内部構造とキメのイメージ図】

【今回開発した三次元皮膚モデル(現物)】
今回の研究成果の詳細
1. 基底膜の凹凸構造を再現した三次元皮膚モデルの開発当社の画像解析技術を活用し、実際のヒト皮膚の基底膜の三次元画像を取得。得られたデータをもとに、3Dプリント技術を用いて基底膜の凹凸形状を再現した金型を作製しました。さらに、この金型を用いて多孔性基材*4に凹凸構造を転写したインサート(凹凸加工済)を作製しました。このインサート上にヒト表皮細胞を播種し、空気暴露培養(エアリフト培養)を行うことで、層構造を有する三次元皮膚モデルを構築しました。【図1】
*4 多数の微細な孔(穴)を持つ材料のこと。

【図1】インサート作製工程と凹凸構造を再現した三次元皮膚モデルの作製工程
2. 凹凸構造が再現された皮膚モデルは、従来の皮膚モデルと比較してバリア機能*5が高く、よりヒト皮膚に近い状態であることを確認
インサート(凹凸加工済)上で形成された三次元皮膚モデルについて、その内部構造や機能、表面形態について多角的な評価をするため、平坦なインサート上で形成された従来の三次元皮膚モデルとの比較を実施しました。
(1)経皮電気抵抗値(TEER)の測定【図2】
インサート(凹凸加工済)上で形成された三次元皮膚モデルは、TEER値が高く、バリア機能が比較的高い状態にあることが示されました。
(2)角層厚・表皮厚の測定【図3】
組織観察の結果、インサート(凹凸加工済)上で形成された皮膚モデルは、角層および表皮がより厚いことが確認されました。この厚みがバリア機能の強化に寄与していると考えられます。
(3)免疫化学染色による発現マーカーの解析【図4】
免疫化学染色による解析により、凸部においてケラチン10(以下K10、分化マーカー)の発現低下および17型コラーゲン(以下COL17、表皮幹細胞制御マーカー)の発現増加が観察されました。これにより、インサート(凹凸加工済)上では、表皮の分化状態や細胞配置が変化し、より厚みのある表皮構造が形成されることが示唆されました。また、凸部におけるK10発現の低下とCOL17発現の増加は、表皮幹細胞の局在や分化バランスが空間的に制御されており、よりヒト皮膚に近い状態を再現していることを示すものです。
ヒト皮膚において基底膜の凹凸構造は加齢に伴い平坦化することが知られており、この構造変化は表皮の恒常性やバリア機能の低下に関与すると考えられています。今回、基底膜の凹凸構造を再現した本モデルにおいて、角層厚・表皮厚の増加およびバリア機能の向上が確認されたことは、基底膜の凹凸構造が表皮の成熟および機能発現に寄与する可能性を示す結果と考えられます。

【図2】三次元皮膚モデルのバリア機能を比較
■実験方法
各インサート上で形成した三次元皮膚モデルについて、空気暴露培養開始後の11日目に経皮電気抵抗値(TEER)を測定し、バリア機能を評価。
<インサートの条件>
従来皮膚モデル:平坦
今回皮膚モデル:凹凸
■結果
平坦なインサート上で形成した従来皮膚モデルと比較して、凹凸構造を有するインサート上で形成した今回皮膚モデルは、より高いバリア機能を示した。
*5 多肌内部の水分蒸散を抑制する機能や、外的因子(アレルギー物質、大気汚染物質など)の侵入を防ぐ機能のこと。

【図3】三次元皮膚モデルの角層厚と表皮厚を比較
■実験方法
各インサート上で形成した三次元皮膚モデルを固定切片化した後、顕微鏡にて観察。角層厚および表皮厚を測定した。
■結果
平坦なインサート上で形成した従来皮膚モデルと比較して、凹凸構造を有するインサート上で形成した今回皮膚モデルは、角層および表皮の厚みが増加していることが確認された。

【図4】三次元皮膚モデルの断面構造の観察結果
■実験方法
三次元皮膚モデルを固定切片化した後、K10(分化マーカー)およびCOL17(表皮幹細胞制御マーカー)を免疫染色にて染色し、蛍光顕微鏡にて観察。
■結果
凹凸構造を有するインサート上で形成した今回皮膚モデルの凸部では、凸部以外の部分、および従来の平坦な皮膚モデルと比較して、K10の発現が低下し、COL17の発現が増加していることが観察された。これは、凸部における表皮幹細胞の局在を示唆するとともに、今回皮膚モデルが細胞の配置の制御に寄与している可能性を示す結果である。
3. 基底膜の凹凸構造と皮膚表面のキメ様構造の対応関係を確認
基底膜の凹凸構造を再現したインサート上で形成された三次元皮膚モデルは、高いバリア機能とヒト皮膚に近い細胞局在を示すことから、皮膚表面におけるキメ様構造も再現可能であると考え、皮膚内部構造と表面構造を同時に観察できるLC-OCT解析を実施しました。その結果、基底膜の凹部に対応する皮膚表面には皮溝様構造が、凸部に対応する皮膚表面には皮丘様構造が観察されました【図5】。
従来の培養皮膚モデルでは表面はほぼ平坦でキメ様構造は形成されませんが、本モデルでは基底膜の凹凸構造を再現することでキメ様構造が形成されていることが確認されました。このことから、基底膜の凹凸構造と皮膚表面のキメ様構造の位置に対応関係があること、すなわち、基底膜における凹凸構造の付与が皮膚表面のキメ様構造の形成に寄与することが示されました。

【図5】 LC-OCTによるインサート(凹凸加工済)で形成した三次元皮膚モデルの観察
■実験方法
三次元皮膚モデルを固定後、LC-OCTを用いて皮膚内部構造および表面構造を観察した。
■結果
凹凸構造を有するインサート上で形成した三次元皮膚モデルでは、基底膜の凹部に対応する皮膚表面に皮溝様構造が、凸部に対応する皮膚表面に皮丘様構造がそれぞれ観察された。これにより、皮膚表面においてキメ様構造が形成されていることが確認された。
今後の展開
今回、実際のヒト皮膚構造に近い生理的な凹凸構造を持つ皮膚モデルを作製できたことは、成分や処方が皮膚内部構造や表面形態に及ぼす影響のメカニズム解明や皮膚表面美観(キメ)と内部構造を同時に評価できる新たな皮膚評価技術として、基礎研究から応用開発まで幅広い分野での活用が期待されます。当社は今後も長年培ってきた皮膚解析・材料・成型技術を融合させることで、皮膚科学のさらなる深化と新たな価値創出に貢献してまいります。<本件に関するお問い合わせ先>
株式会社 富士フイルム ヘルスケア ラボラトリー
化粧品事業部 マーケティング統括部
TEL 050-3514-3644
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