紫外線(UV)を浴びた直後のDNA修復がUVディフェンス力を決める

2025/12/02 (2025/12/02更新)

ポーラ・オルビスHD


ポーラ・オルビスHD
―光老化への影響が知られるDNAのキズ、早期修復に着目―

 ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:片桐崇行)は、紫外線(UV)による肌細胞のDNA損傷(キズ)に対し「直後にどれだけ修復できるか」が、キズ蓄積に影響を与えることを明らかにしました。

本研究により下記の3点が明らかとなりました。
- UVを浴びた直後のDNA修復力には、表皮細胞のIGF1R(※1)が減少しないことが重要である
- IGF1Rが減少した表皮細胞では、直後の修復力が不足し、DNAのキズが蓄積しやすくなる
- アルニカエキスは、表皮細胞のIGF1Rを増加させるはたらきがある

※1 Insulin-like Growth Factor 1 Receptorの略。細胞表面でIGF1を受け取り、DNA修復を始めるシグナルを出す受容体。

UVを浴びた「直後」のDNA修復とIGF1Rの働きに着目

 ヒトの肌は、他の哺乳類に比べて毛が少なく、UVの影響を受けやすいと言われています。特にUVB波(UVB)は表皮細胞のDNAに直接キズを与えます。通常は、細胞が備えるDNA修復力で回復しますが、加齢などにより修復力が弱まるとキズが蓄積し、シミやシワなどの光老化(※2)につながります。
 DNA修復には多くの要素が関わります。そしてDNAのキズはUVを浴びた「瞬間」から発生します。しかし、そのUVによるキズに対し、直後の修復力と、その後のキズ蓄積へ与える影響については、十分に分かっていませんでした。

 そこでポーラ化成工業は、UVを浴びた「直後」のDNA修復力に着目しました。加齢した肌で減少し、早期のDNA修復を含む様々な事象に関わる因子IGF1(※3)の受容体「IGF1R」と、「UVを浴びた直後のDNA修復力」の関わりを調査しました(補足資料1)。

※2 長期間紫外線を浴びることで肌の老化が加速される状態。
※3 Insulin-like Growth Factor 1の略。成長に関わる因子タンパク質の1つ。

IGF1Rが減少した表皮細胞は、UVを浴びた直後のDNA修復力が減少し、DNAのキズが蓄積しやすい

 その結果、IGF1R遺伝子発現量が減少した表皮細胞では、DNA修復因子の働きが、UV照射10~30分後の間は減少し、60分後には正常細胞との差がみられなくなりました(補足資料2)。一方で、DNAのキズの量は増加し続け、60分後には約4.6倍まで差が拡大しました(図1、補足資料3)。
 このことから、IGF1Rを介した、UVを浴びた直後のDNA修復力が、その後のキズ蓄積量を左右するカギであることが分かりました(図2)。つまり、UVによる肌のダメージを効果的に防ぐには、UVをカットするだけでなく、肌側のDNA修復力、つまり「UVディフェンス力」も重要と言えます。





IGF1Rを増加させるエキスを発見 

 さらに研究を進めた結果、アルニカエキスに表皮細胞のIGF1R遺伝子発現量を約2倍に増加させる働きを見出しました(補足資料4)。

 ポーラ化成工業は今後も、より良い肌ケアにつながるよう、肌メカニズムについての理解を深める研究を継続してまいります。

【補足資料1】 IGF1Rを介したDNA修復経路
 UVBは表皮細胞のDNAに吸収され、DNAに直接キズを与えます。中でも「DNA二本鎖切断」は細胞にとって深刻なキズです。細胞はこのキズに対する修復力を備えており、1.ATM(※4)がキズを検知し、2.γH2AX(※5)がキズに結合して修復因子を集め、3.POLL(※6)が合成した新しいDNAでキズをつなぎ直すという流れが知られています。また、IGF1RシグナルはDNA修復の各段階の進行を広くサポートします。
 これまで、これらの因子やIGF1RシグナルによるDNA修復への関与は、主にUVを浴びた「30分後~数時間」の段階において調べられてきました。しかしDNAのキズはUVを浴びた「瞬間」に生じること、IGF1Rを介した修復もより早い段階から作動する可能性に着目しました。IGF1Rが UVを浴びた「直後」からDNA修復の「開始と進行」を担う可能性を考えたのです。




※4 ataxia telangiectasia mutatedの略。DNA修復に関与する上流因子の1つ。
※5 phosphorylated H2A histone family member Xの略。DNAのキズ(DNA損傷)の箇所に現れる、リン酸化されたDNAを巻きつけるヒストンタンパク質の1つ。
※6 DNA polymerase lambdaの略。DNA修復に関与する下流因子の1つ。

【補足資料2】 IGF1R遺伝子発現が減少すると、UVを浴びた直後のDNA修復力は減少する
 肌のIGF1Rは加齢などによって減少しますが、UVを浴びた直後の修復力への影響は不明でした。そこで実験的にIGF1R遺伝子発現量を減少させた表皮細胞を用い、UV照射直後のDNA修復に関わる遺伝子(※7)の働きを調べました。その結果、IGF1Rが減少した細胞では、正常細胞に比べて、UV照射10分~30分後の修復因子の遺伝子発現量が減少しました。60分後には差はみられなくなりました(図4)。
 このことから、IGF1R遺伝子発現量はUVを浴びた「直後」の修復力に関わることが示されました。



※7 DNAのキズを検知し修復を始める酵素ATMと、壊れたDNAのキズの箇所を新しいDNAで埋め元通りにする酵素POLLの2因子を対象とした。

【補足資料3】 IGF1R遺伝子発現が減少すると、DNAのキズの蓄積量が増加する
〈図1の実験の詳細〉 
 DNAのキズの目印であるγH2AX(※8)タンパク質を染色し、その発現量を測定しました。
その結果、IGF1Rが減少した細胞では、正常細胞に比べて、UV照射10分後にはキズの量が多くなり、30分後には差がさらに拡大し、60分後には約4.6倍に達しました(図5)。注目すべきは、補足資料2で前述したように、UV照射60分後には修復因子の発現差が無くなっていたにも関わらず、DNAのキズ蓄積は進行した点です。
 これは、IGF1R の発現量の差が、その後のDNAキズ蓄積量を大きく左右することを示しています。つまりDNAキズの蓄積を防ぐためには、IGF1Rを介したUVを浴びた「直後のDNA修復効率」が重要と考えられます。





※8 DNAのキズ(DNA損傷)の目印として広く用いるマーカーであるγH2AXを、DNAのキズの程度を示す指標として使用した。


【補足資料4】 表皮細胞のIGF1Rの発現量を高める植物エキスの探索
 表皮細胞のIGF1Rを増加させる植物成分を探索した結果、アルニカから抽出したエキスがIGF1R遺伝子発現量を2倍以上に増加させることが確認しました(図6)。
 アルニカはヨーロッパ原産の菊科の多年草で、古くから肌をすこやかに保つために親しまれてきた植物です。



企業プレスリリース詳細へ
PR TIMESトップへ